第21章 この世で一番美しい炎-マモルモノ-
「滉、私はそろそろ退屈になってきた。そろそろこの無意味な時間を終わらせよう。彼女は私が貰う」
そう言って彼は私を引き寄せる。
「さぁ来い。それとももう一発、撃ち込んだ方がいいか?」
「や……!」
私は咄嗟に彼の胸を押す。けれどそんな抗いなど何の意味もなく、腰に腕を回した彼に、私はきつく抱き寄せられてしまう。
「嫌……っ!」
「止めろ!!」
「抵抗するな。滉がどうなってもいいのか」
「やめ……!」
銃口が容赦なく滉に向けられる。
「…駄目!!」
「なら私の元に来ると言え」
「っ、」
「駄目だ!行くな!!」
「愛する男の死を目の前で見たくはないだろう?」
悲しいのか辛いのか、それとも感情の高ぶりなのか更に涙が溢れる。
「…あ…っ」
不意に、滉の身体がぐらりと揺れた。倒れるのか──そう思った瞬間。
「…俺は…俺だけの…ことなら…もう全部どうでもいいと…思ってた。死のうが生きようが…どうでも良くて…消えてもいいなって…思ってたけど…」
「……………」
「でも…そいつだけは…駄目だ」
「滉……」
「俺は…到底『選ばれし者』にはなれないし…っ、大して価値のない…命だと分かってるけど…」
苦しそうな息遣いが聞こえた。
「それでも…俺は…───」
滉が剣の柄をきつく握り直す。
「そいつだけは守るって決めてるんだよ…!!」
「…この飼い犬風情がっ…!!」
「きゃあああ……───っ!?」
拳銃の音と剣が風を切る音が同時に聞こえた。
「…うっ、ぐぁ……───っ!」
「…っく、あ…っ」
「滉!」
滉が膝をつくと同時に、彼の傷口からもまた真新しい血が溢れ出た。
「…滉…っ」
四木沼喬が苦しげに顔を歪め、滉の名前を呼ぶ。
「何て…顔だよ、はは…っ。俺が…何も出来ないと…思ってたろ?思い通りになると…思ってたろ?永遠にあんたの言いなりになってる…無力な下僕だと…思ってたろ?でも…あんた…肝心なところが馬鹿だな」
「…ば、かだと?」
「躾の悪い飼い犬なら…ご主人様の手を噛みもするだろうし…檻から逃げ出すもするだろうさ。…なぁ、そうだろ?……───兄さん」
next…