第21章 この世で一番美しい炎-マモルモノ-
「確かに…和綴じ本はもうこの先…増えることはないものだと思う。街にだってどんどん印刷の本が増えている。でも私は貴方のように悲観しない。私達が守るもの。次の時代の誰かに届くように、大切に守る。消えさせない」
『今夜書かれた物語が、百年後に誰かの目に触れる…そんなことがきっとあるだろう』
『その頃には多分、私もお嬢さんもこの世にはいない。でもそうして誰かに届くことを想像すると、楽しくないか?』
「(私のいた世界はこの世界の未来じゃない。この世界の百年後は、私の知らない世界の未来に繋がっている。)」
私は朱鷺宮さんの言葉を思い出し、必死に自分を鼓舞する。
「(この世界で書かれた物語が、私のいた世界に届くことはないけれど…)」
だからこそ、届けたい───。
「貴方は一番大事なことを忘れている」
「…大事なこと、だと?」
「確かにこのアウラは美しくて…魅了されない者はいないと思う。でも…本はそうして眺めるためのものじゃない。伝えて、残すものだよ」
「……………」
「貴方はこの炎に魅入られてしまって…そんな簡単なことも…分からなくなっている。これから残していく…大切なものなのに。貴方はその未来を拒むの?」
「この憐れな国に未来など不要」
「そんなことない!そんなの貴方の勝手な都合だ、勝手にこの国の未来を決めつけないで。この国は貴方のものじゃない」
悔しさと、怒りと───そして彼への憐憫なのだろうか。私の心を苦しくさせるものは。
「華族が…何だっていうの。爵位がそんなに大切なものなの。地位がそんなに大事なものなの。そんなもの…別に要らない」
「……あんた」
「何を言い出すかと思えば」
「『爵位』という称号が誰かを傷付けるものなら、そんなもの…消えてなくなればいい」
「…………っ」
「君は……っ」
「私は爵位や名誉がそんなに大事なものだとは思わない」
「…何、だと?」
「貴方は私に言った。…知ることが大切だと。本当にその通りだよ。この世界には確かに美しいものと醜いものがある。でもそれを貴方の価値観で消し去らないで」
「……………」
「この際だから貴方に教えてあげる」
真っ直ぐな隻眼を彼に向ける。
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