第21章 この世で一番美しい炎-マモルモノ-
「な…!?それは…ど、どういう…意味?」
「この国は今、民主主義が大きな力を持ち始めている。何が平等だ。何が同権だ。総ての人間が等しくあれなどという考えは愚か過ぎる。それこそ、過去を学んでいない」
「……………」
「多くの人間は自分で考える力などなく、ただ支配を享受するのみ。抗い方すら分からぬまま歯車となって生きる。上に立つ者がいてこそ、彼等は生きていけるのだ。そして……────『華族』こそがその頂点に立つに相応しい存在なのだ」
「!」
「この国を束ねてきた数多の者達の系譜に連なる、尊い血。人の上に立つための血。そんな血を持つ私達から爵位を奪い去り…平民になれ、と?それこそが新しい国だと?ならば…そんな愚かで醜い国など滅び去ってしまえばいい」
「…何てことを…!」
「だから私は次の大戦を起こす」
「それ…本気で言ってるの…?」
「もちろん。既に準備は整いつつある。関東軍参謀達は今、満州をその手に収めるために罠を仕掛けている。そしてその次は…」
彼が愉しげに目を細めた。
「火種はもう作った。後は…燃やす好機を待つのみ。カラスなどという退屈凌ぎの遊びはもう終わりだ。フクロウも尾鷲達によって潰されるだろう」
「(なんて卑怯な人…!)」
「私としては別に君以外には消えてもらっても構わなかったのだが、あの百舌山が実験体が欲しいと言うのでね」
「な……!」
「既にこの国を離れる準備は整いつつある。私は薔子と、選り抜いた者達と欧羅巴に渡る。そこには君も入っている。君には私の血を継ぐ子供を産んで欲しい。私は彼女を愛している。だが血は残さねばならない。君は若く美しく、そして聡明だ。例え立花家との血の繋がりはなくとも、君は異人の血を引いている」
「!!」
「そしてアウラが視える力…まさに『選ばれし者』だ」
彼の表情に相変わらず温度はなかった。ただそれが今は逆に仄暗い執着を感じさせ、足が震えた。
「…おかしい」
声も震えていた。
私はそれでも彼を睨んだ。
「そんなの絶対におかしい!!間違ってる!」
「稀モノも、私達華族も運命(さだめ)は似たようなものだ。尊いものでありながら、滅び消えゆく」
「そんなことはない!」
「…………っ」
.