第21章 この世で一番美しい炎-マモルモノ-
明確過ぎる侮蔑。
これが、半分とは言え血の繋がった弟に向けられる眼差しなのだろうか。
呆然としていると、彼が私にゆっくりと歩み寄ってくる。
「君もあの光を、あの炎の輝きを、美しいと思うだろう?」
「……………」
「人間の想いが閉じ込められ炎となる……───あれこそがこの世で一番美しく尊いものだ。私がこの力を得たのは…恐らく、この傷を負った時だ」
「な……!?」
「ある日、屋敷の書庫に見慣れない光が見えた。最初は目の錯覚かと思った。稀モノなどという言葉はまだ知らなかったからな」
「(私も同じ…。彼の屋敷の書庫で見慣れない光が見えた。最初は目の錯覚かと思った。でも…それが稀モノで…瑞稀を死に至らしめる恐ろしい本だなんて知らなかった。)」
「ただ…私はすぐにこの炎の虜になった。もっと沢山の炎を見てみたいと思った。その炎に囲まれてみたいと思った。その本を部屋に持ち帰り、ずっと眺めた。まるで恋した女を凝視めるように」
「……………」
「やがて魂が宿るという奇妙な本の噂を耳にし…私はそれを手に入れた。間違いなく、その本も炎に包まれていた。私はこの美しい炎に焦がれ…手の限りを尽くして集めたのだ」
「……………」
「だが惜しい。実に惜しい。こんな美しいものがもうすぐこの世界から消えてしまう」
「!?」
「この世で一番美しいものが、滅んでしまうのだ。私はそれが残念で仕方がない」
彼は眼を細め、揺らめくアウラを眺めた。
「オークションに群れ集う者も、あの百舌山も尾鷲も、みんな愚かで憐れだ。奴等にはこの美しい輝きが分からない。あんなつまらぬ偽物にしがみつき、端金で満たされている」
「……………」
「尾鷲に至っては『本物』の稀モノさえ信じていない。戦うことしか頭にない…野卑な男だ。だがそれも仕方がない。この世界には美しいものと醜いものがある。だからこそ、真の美しさに価値があるのだ」
「貴方が…恐らくこの日本で一番の稀モノの蒐集家であることは分かった。なら何故、そんな偽物をオークションに掛けるの?やはり貴方はこの国を…操りたいの?」
「そんなつまらないことは考えていない」
「………!?」
「私はこの国を愛するが故に、消し去りたいのだ」
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