第20章 刻みつけられた熱-スキ-
「何か…違うらしい。俺と、あんた達……───華族は。俺には見分けなんかつかないけど、でも何かが違うんだろう」
「……違わない」
答える声が震えてしまう。私は涙を堪えるためにきつく瞼を閉じる。
「そうだな、あんたはそう言うと思ってた」
「……違わない。……ごめんなさい」
「そこで謝る意味が分からない」
「私…この間…引っぱたいた時に…非道いことを言った。滉だって…母親を…亡くしていたのに…」
「そう言えばそうだった。あの日に、俺も死んだような気がしてたから」
「滉……っ」
淡々と語る彼の中の悲しみが伝わってきて、押し潰されそうだった。
「俺の役目はあいつの身代わりになることなんだ」
「な…何、それ…」
「ああいう偉い一族では良くあるらしい。何か犯罪をやらかした時に、代わりに死刑台に昇る役目」
「……滉」
「半分だけあの血を引いて、でも消えても惜しくない」
「止めて!」
彼を抱き締めたいのに、私は組み敷かれたままだ。
「…そんなことない。
滉が…消えていいわけない」
今までの彼のあの『華族』に対する憎悪や自虐の理由を知り、私は歯痒さにまた泣きそうになる。
「…ごめんなさい」
「今度は…何に謝ってるんだよ」
「何も知らなかった」
「知るわけないじゃん。…俺は黙ってたし。こんな話…華族のお姫様には面白くないだろ」
「…………っ」
一括りにして欲しくない、と。以前に彼にそう口にしたことがあった。けれど滉の中の冷たい失意と嫌悪を思えば、それも難しいように思えた。
「…私も憎い?」
「……………」
「私も…貴方の中で…憎むべきもの?」
「……────そうかもな」
全身が、すっと冷たくなった。
彼は私を見下ろしている。
「だから…あんたをめちゃくちゃにしないと気が済まない」
突然奪われた唇の熱に、私は小さく声を洩らす。
「………っ!」
「……っん……!?」
その瞬間、私は思い出し、気付いてしまった。映画館で私の唇に触れたもの。
ほんの一瞬だったそれが、今また私に押しつけられていた。
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