第19章 決断-ユウキ-
「私のいる世界では稀モノという危険な本は存在しません。フクロウという組織も、カラスという組織も。全部、存在しないんです」
小刻みに震える手をギュッと握り締めて、私は続ける。
「世界中の人達が、書店で好きな本を買い、どこでも自由に読める、そんな世界です。『"本が人を殺さない"』それが…私のいた世界です」
朱鷺宮さんも滉も黙って聞いている。
「本に怯える必要も稀モノに怯える必要もない。ごく普通の平和な世界なんです。私が今までずっと誰にも話さなかったのは…別の世界から来た人間だと言っても、信じてくれないと思ったからです」
反応が怖くて二人の顔を直視出来なかった。普通の人ならば、頭のおかしい奴だと馬鹿にして笑うだろう。多分私も…簡単には信じられない。この世界に稀モノという危険な本が存在すると知った時と同じように。
だから、覚悟はしていたつもりだ。簡単に信じてもらえるとは思っていない。
「立花…教えてくれ」
「…何でしょう」
「君が本当に別の世界から来たと言うなら…君は一体どうやって、この世界に来たんだ?」
「っ、それは…」
あの日の記憶が呼び起こされる。
「誰かに階段から突き落とされたんです」
「!?」
「突き落とされたって…」
驚いてばかりの二人を見て、それはそうだと納得する自分がいた。言葉にした朱鷺宮さんの表情が完璧に困惑している。それは滉も同じだった。
「階段を降りようとした時、後ろから突き飛ばされたんですよ。慌てて振り返ってみたのですが…犯人の顔は分かりませんでした」
「……………」
「でも…一つだけ、覚えていることがあります」
一度目を閉じてから、ゆっくりと開ける。
「そいつ、笑ったんですよ。
落ちていく私を見ながら」
「っ…………」
「そして気付いたらこの世界で夜道を彷徨っていました。正直、死後の世界かと思いましたよ。でも人間って不思議ですね。混乱した頭が突然スッとクリアになって、周りの状況を必死に把握しようとするんです。そしたら自然と"飛ばされたんだ"って認識し始めました」
私だけかも知れませんが、と付け加えて苦笑する。それでもまだ頭が混乱しているのか、2人はずっと同じ表情を浮かべていた。
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