第19章 決断-ユウキ-
「立花詩遠という少女のことを」
「!」
「君が私達を知ろうとしてくれているように、私達も君のことを知ろうとした。だが…君は自分のことを他人には踏み込ませないようにしていた」
「……………」
「まるで自分は他の者達と違う存在だからとでも云うように…干渉せず距離を置いていた。だから私は、君を知ることはいけない事なんだと思っていた」
静かに語られる朱鷺宮さんの表情はいつにも増して真剣で、真っ直ぐに向けられる瞳は、私を知ろうとしてくれているのだと分かる。
「けど…あの質問をされて、君を知ることは、君にとっての救いでもあると気付いたんだ」
「私にとっての、救い…?」
「立花、君がずっと一人で抱えてきた悩みは…決して他人には話せない事なんだろう?」
「それは…」
「新人歓迎会の日、留学の話をしたのを覚えているか?そこで君は仏蘭西への留学経験があると言っていたが…それは嘘だな?」
「!ど、どうして嘘だと…」
「使用人が教えてくれたよ。立花家に引き取られて以来、君は留学した事も旅行に行った事も…一度もないと」
「…………っ!?」
背筋が凍りつき、冷や汗が流れた。
『え?お嬢様がですか?…いいえ、お嬢様が立花家に引き取られてからはずっと家におりましたので、留学も旅行も何かの間違いだと思いますよ』
「…君には悪いと思っている。こんな、君の素性を探る様な真似をして」
「……………」
「だが使用人の誰に聞いても…立花家に引き取られる以前の君の事を、知る者はいなかったよ」
「(あぁ…どうして…)」
神様は、本当に意地悪だ───。
「両親の事も、何処に住んでいるのかも、一切話さなかったそうだな。立花警視総監も君を気遣って聞かなかったらしいが…」
「(心のどこかでこういう日が来るんじゃないかと思っていたけど…"今"か。)」
口から零れたのは、諦めの笑みだった。
「もし…」
「!」
「もし私が…別の世界から来た人間だと言ったら…どうしますか?」
「「!?」」
「信じて…くれますか?」
怖くて、声が震えた。
「別の世界って…」
戸惑うような、驚いた声で滉が言う。
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