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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第19章 決断-ユウキ-



「ただ命じ、望むだけ。彼の言葉一つで動く下僕の鴉達が沢山いるんです」



滉が、ほんの一瞬、自嘲するように唇を歪めた。



「…そうだったのか。
話してくれて…有難う、滉」



「……いえ」



そこで朱鷺宮さんは小さく煙を吐き、滉をじっと凝視める。



「もう一つだけ…聞いてもいいだろうか」



「どうぞ」



「君が、笹乞藤一郎に対して先日きつい物言いをしたと聞いた。正確には以前から彼のことを快く思っていなかったふしが…あるな」



「……………」



「それは…彼が稀モノ作りに携わっていたせいか」



「…さぁ、どうなんでしょう」



「それとも彼を通して…カラスを憎んでいたのか」



「……───さぁ、どうなんでしょう。
俺にもよく…分かりません」



そう答えた滉の表情はもう静かで、今、何を思っているのか読み取れない。



「そうか。つまらないことを聞いて済まなかったな。さて、と次は…」



朱鷺宮さんは短くなった煙草を灰皿に押し潰し、新しい一本の煙草を咥える。



「今度は立花に聞きたい」



「は、はい…」



「と、その話をする前に…別の話をしよう」



「別の話?」



「君自身のことについてだ」



「え?」



「立花、単刀直入に聞く」



訝しんだ隻眼で見つめられ、私の心臓が音を立てて速くなる。



「君は一体、何者なんだ?」



唐突過ぎる問い掛けに、私は表情を引き攣らせた。



「…どういう、意味ですか?」



「昨日、立花家の使用人に会って話を聞いてきた。みんな良い人達ばかりで君は恵まれたな」



「……………」



「そう怖い顔しないでくれ」



朱鷺宮さんは苦笑する。



「どうして…そんなことを…」



「どうして、か…。以前、君は私に不思議な質問をしたな?」



『この世界には、稀モノが無くて、本当にごく普通の、平凡な世界だったら…朱鷺宮さんは嬉しいですか?』



「あの時の言葉がずっと気になってたんだ。何故、君はあんな事を言ったのか。あんな…寂しそうな顔で」



「!」



「だから私はな、知りたいと思ったんだ」



「知る?」



意味が分からず朱鷺宮さんを凝視すれば、彼女は艶やかな紅がひかれた唇で笑んだ。



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