第19章 決断-ユウキ-
「偽善ぶるのもいい加減にしろよ」
「!!」
その言葉に反論しそうになったのを、どうにか堪える。
「…滉、貴方は何が…したいの?」
「………!」
不思議と、私の唇から洩れた声は静かだった。
信じたかった。知りたかった。
彼が今──何を考えているのか。
「貴方は私達を裏切っているんでしょう?カラスの仲間なんでしょう?なら何故…そんなことを言うの?何が貴方の望みなの?私があそこに行くことが嬉しくはないの?それも貴方の目的の一つじゃないの?」
「……………」
「貴方は何のためにここにいるの」
「…………っ!」
彼が私を強く睨んだ。
「……───分かったよ。そんなに鴉の餌食になりたいなら、俺が連れてってやるよ」
✤ ✤ ✤
「「……………」」
滉は、ナハティガルから少し離れたところでタクシーから降りた。
午後10時を過ぎているというのに、ギンザの街は全く眠る気配を見せない。
この街は、空虚で豪華な罠だ。
煌めく光に誘い込まれ、気付くといつの間にか闇の底だ。
「…どうしたの?」
不意に、滉が立ち止まった。
「早く行こう」
「……ああ、そうだな」
流石に表のエントランスから入るつもりはないらしい。先日のあの裏口に近付くと、扉近くに立っていた男達がこちらに気付いた。
「滉!」
「!?」
「……田淵」
真っ先に声を掛けて来たのは、間違いなく先日のあの彼だった。
「良かった、やっと連れて来たんだな」
「…………」
「お前がなかなかそいつを連れて来ないから、裏切ったんじゃないかってみんなで噂してたんだぜ」
「……済まない。少し、向こうでごたついて」
「まぁいいけどさ。じゃあ、その女は預かるよ」
「…………!」
仲間と思わしき何人かがばらばらと近付いて来て、私を取り囲む。
「……あき……っ」
咄嗟に彼の名を呼びそうになり、私は唇を噛んだ。
「…大人しそうに見えても、案外手が早いから気をつけろよ」
感情のこもらない声だった。
自分でここに来ることを決意したはずなのに、今更また絶望感がこみ上げる。
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