第18章 漆黒の策謀-アウラ-
「そうですか?では後ろからそっと入って皆さんの仕事振りを見学してますね」
翡翠達の紹介を済ませ、私達は店に赴く。
「笹乞さん、今晩は」
「…………っ」
「(笹乞さん…?)」
珍しい、と思った。
いつも私達の存在など気に留めないような態度なのに、今日は明らかに驚きを示したのだ。
稀モノのアウラが見える今だからこそ、私は素早く店内に視線を巡らせた。
「(…何だろう、嫌な感じがする。)」
空気がざわついているとでも言えばいいのか、肌がぴりぴりする。
「(ある気がする…あれが…何処かに…)」
棚を見る限り、それらしいものは視えない。
「(…私の勘違い?でも…)」
「今晩は、笹乞さん、お久し振りです。最近ずっとお休みのようで心配してました」
「……ふん」
「それとも、営業時間を変更されたんですか?その場合はきちんと連絡していただかないと困ります」
「別にそういうわけじゃないよ。今日だってもう閉めようかと思ってたところだしね」
「それは失礼しました。……では手短に。和綴じ本は入ってませんか」
「ないよ。さぁ出てって」
相変わらずの物言いに、つい小さな溜息が洩れる。けれど────。
「……あ!」
「!?」
何気なく笹乞さんの手元に目を遣った────その時。
ゆらり、と。
黒っぽい煙のようなものが視界を過った。
そして私の両眼は、空色の光を濃く放つ。
私の叫びに、笹乞さんがまるで咄嗟に何かを庇うように身体を丸める。
「笹乞さん!」
「翡翠、それ…」
私が更に目を凝らすと、笹乞さんの側に積み上がった本の一番下に、黒く揺らめくものが────視えた。
私はつかつかと歩み寄り、その本を引き抜いた。
「…何するんだよ!」
「笹乞さん。…これ…稀モノ、ですよね?」
「………!?」
私達の仕事をそっと見学していた累が驚いた表情を浮かべる。
「(この色……)」
私は自分の手の中のそれを眺めた。
「(改めてアウラが視えるようになると…本から伝わる感情に呑まれそう…)」
いつの間にか、瞳の色は消えていた。
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