第18章 漆黒の策謀-アウラ-
「そして今、起きていることが奴等の仕業だという確かな証拠はない。…鴉の羽根だけでは、な。というわけだ、本日もしっかり巡回してきてくれ」
そう笑んだ直後、ほんの短く朱鷺宮さんが滉を見遣った。
けれど彼はもう背を向けてしまった後で、朱鷺宮さんと───私の視線には気付かなかった。
✤ ✤ ✤
「休みだな、今日も」
「あれ……」
何軒か回った後、お昼近くに笹乞さんのお店に向かうと、案の定扉は閉ざされていた。
「ここ最近、殆ど開いてるところを見ないんですが、体調でも崩されたんでしょうか」
「どうなんだろうね…」
「あら?笹乞さんのところに来たの?」
「あ、はい、こんにちは。
私達は帝国図書情報資産管理局です」
「ああ、本の何かの人達よね。笹乞さんねぇ、最近昼間は滅多に出てこないわよ」
「体調でも崩されてるんでしょうか…?」
「それはないと思うけど…。夜になると電気はつくから、いるはいるんでしょうね」
「(居留守でも使ってるのかな…)」
「この間なんてね、店の裏口で何か燃やしてたのよ、そのまま家まで燃やすんじゃないかって、冷や冷やしちゃったわよ。あの人ってさ、ほら陰気じゃない?放火でもされたら…」
「参考になりました、どうも」
滉がいつも通りの素っ気なさで話を打ち切ると、彼女は残念そうだった。
「…夜にもう一度来てみましょうか」
「そうだね」
✤ ✤ ✤
「あ!開いてますね!」
午後6時45分。
私達は再び笹乞さんの店を訪れた。
「来てみて良かったね、これで笹乞さんに…」
「あれ?もしかして…」
「え?」
何処かで聞き覚えのある声に振り返ると、すぐ後ろに累が立っていた。
「ああ、やっぱりそうだ!
今晩は、久し振り!」
「今晩は累、本当に久し振りだね。
そうだ、あの時の怪我ってもう治った?」
「うん、もうすっかり。詩遠達は仕事中?」
「今からあそこの笹乞さんのお店に伺うところ」
「あれ、そうなの?偶然だね。僕も今から行こうと思っていたんだ。あ、でも…かち合わない方がいいかな?仕事の邪魔になったりします?」
「大丈夫ですよ、そんな特別なことはしませんし」
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