第17章 獲物-キョウハク-
『これはもう個人の問題ではない』
『混同するな』
私は彼女の言葉を噛み締めながら、必死に考えた。
そう──彼の裏切りは、私に対してではない。このフクロウにも及んでいるのだ。
けれどだからこそ──知りたかった。彼がカラスである理由を、その意味を。
そして──信じたかった。彼の心を。
「…あります。もう一つ」
たった一言なのに、誰かに死刑を告げるような緊張感と息苦しさがあった。
「実は…その、昨日…滉とも…話したのですが…その時、彼が…言ったんです。その…───『自分はカラスの仲間』だって」
「…………っ」
「あ!でも…待って下さい朱鷺宮さん!私、滉を捕まえて欲しいわけではないんです!」
眉をひそめた朱鷺宮さんに、私は縋るような気持ちで身を乗り出していた。
「そういうわけでは…ないんです」
「立花…」
「申し訳ありません、私…馬鹿なことを言っていますよね。そもそも…滉が私をからかったのかも知れませんし…」
「…いや」
朱鷺宮さんが小さく眼鏡を直した。
「彼の行動は少し不自然だなと…思っていたよ」
「…え!?」
朱鷺宮さんが苦く笑む。
重い沈黙が降り、私は何度も朱鷺宮さんのブラウスの皺を凝視めた。
正視出来なかったのだ。彼が──滉が断罪されるのが怖くて。
「他にはどんな話を?何か言っていたか?」
「…それだけ、です」
朱鷺宮さんが、溜息ともつかぬ微かな息を洩らす。
「あ、あの!私は…きっと何か理由があると思うんです!もちろん、それが見逃す理由にならないことも分かって…いますが…。これ以上また…犠牲が増えるのも嫌です。ただ彼を…信じたいんです。……──子供で済みません」
何の解決策も、提案出来ない。ただ駄々をこねてるだけの自分が無様だった。
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