第17章 獲物-キョウハク-
「でも私が彼女に自殺を与えるきっかけを作ってしまった。あの本さえ見ないフリをしていれば…彼女は死なずに済んだんです」
「立花…」
「その時に約束をしたんです、彼と」
私は茜色のピアスに触れる。
「幸せにはならないと。彼女の死を忘れて幸せを望むなんて…できない。彼の不幸を犠牲にしてまで…自由になりたいとは思わない」
「それが…君が自分の幸せを望めない理由なのか」
「はい」
「……………」
朱鷺宮さんはどこか複雑そうな表情を浮かべていた。
「今の私はアウラの力を取り戻した。四木沼喬はそこに目を付けたんです」
「なるほど…」
「私があそこに行けば…」
「駄目だ」
「………!」
「不安だろうが、その考えは捨てろ。いいか?相手は正当な取引が通用するかどうかの保証もない奴らなんだ。立花が仮に…そう仮に、あそこに行ったとしても、それで終わるかどうか分からない」
「でも、また誰かが…!!」
「落ち着け!」
「っ………」
「その優しさや真面目さは、立花の美点だ。だが同時に……───弱味にもなり得る。もう一度言うぞ?その身を犠牲にして、総てが片付くなんて思うな」
「……………」
「この前も言ったはずだ。これは決して立花だけが狙いじゃない。残酷に聞こえるかも知れないが、あの使用人に関しては口封じの可能性の方が高い。それが奴等のやり方だ。…今までも、そうだった。混同するな」
「それはそうかも知れませんが、でも…」
喉元まで、滉のことが出掛かった。けれどやはり、言葉は出てこなかった。まだ心の何処かで彼を信じたい気持ちがあった。
「(…もしかして…だからこそ、朱鷺宮さんに相談すべき?)」
毅然とした彼女を前に、ふとそんな考えが浮かぶ。
『でも、そう悪い人には見えませんわ』
『私、雨月堂の前で彼に助けられたことがあったのです』
「(滉……)」
私が見ていた彼は、どんなふうだったろう。泣きそうな思いで、私は彼と過ごした時間を手操り寄せる。
『まぁ、あんただけだとすぐ捕まりそうだから、行く時は付き合ってやるよ』
「(どっちが本当の…貴方なの?)」
「立花?どうかしたか?まだ何か…話したいことがあるのか?」
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