第17章 獲物-キョウハク-
「"満月の光によって現れる、硝子で作られた扉の前に立ち、目を閉じて自分が帰りたい場所を心の中で強く願うこと"…」
もう一つの方法も見てみた。
「"最初に自分がいた場所を訪れ、その周辺に何かしらの目印がないかを確かめ、印があった場合、そこに手を翳すとブラックホールのような空間が現れ、それを潜る事で元の世界に帰れる"」
何とも信憑性がない。だが、二つの情報に同じ注意書きが記されていた。
「"ただし、誰かに引き留められたり、少しでも帰りたくない気持ちが残っていれば、二度と帰れなくなる"……───」
それが本当か嘘かは分からない。でも検索欄の一番上に出てきたのだ。信憑性はゼロに近いが、試してみる価値はありそうだ。
「まず満月がいつか調べないと…」
コンコンッ
「…立花。私だ」
「!?」
聞こえた声に慌ててスマホをバッグにしまい込んだ。扉を開けると朱鷺宮さんがいた。
「…電気くらい、つけろ」
何か言おうとしても、今、何を言えばいいのか分からない。私は部屋の電気を付けた。
「…朱鷺宮さん。やはり私が…あの手紙の通り、会いに行くべきでしょうか」
「早まるな」
朱鷺宮さんは苦笑した後、私の肩を軽く叩いた。
「カラスの仕業を疑いたくなる気持ちは分かる。だが少なくとも、美沙宕さんはまだ奴等絡みと決まったわけじゃない。立花が責任を感じることは…」
「……いいえ」
私は力なく首を振った。
たったそれだけでもう倒れてしまいそうなくらい、全身が異様に疲労していた。
「黙っていて…申し訳ありません。
私も…確実に『獲物』なんです」
「………え」
『お嬢さん。気が変わったらいつでも私を訪ねて下さい。…お待ちしていますよ』
「私は…実は昨日……────ナハティガルに拉致されました」
「な……!?」
「ぶ、無事です!け…怪我も、その…乱暴されたりも…なかったです」
「それは…本当なのか。いや、そんな嘘をつける人間だとは思っていないが…。もし、何か…あったのなら、同じ女性として私には…」
私はきつく目を閉じた。浮かんだ滉の顔を、そうして消し去ろうと思った。
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