第17章 獲物-キョウハク-
「(まさか…昨夜のことを誰かに聞かれた…?)」
どんな言葉を口にすればいいのか分からずにいると、翡翠はゆっくりと歩み寄って来た。
「おはようございます。あの…実は、貴女には大変言いにくいことなんですが…」
「…どう、したの…?」
「……───先日、情報をくれたナハティガルの使用人が死亡しました」
「!?」
「……『自殺』です、一応は」
「い、一応って…」
「首を…吊っていたんです。ただ…彼のポケットに……───鴉の羽根が」
ふっ、と。言いようのない絶望感に私は立ち眩んだ。目の前が真っ暗になり、そのまま倒れ込みそうになるのをどうにか堪える。
「大丈夫ですか?朝から…こんな話、嫌ですよね。……済みません」
「だ、大丈夫!それはもちろん驚いたけど、私だってフクロウの一員なんだし!」
そう叫んだ瞬間───泥を飲み込んだような不快感があった。
『あんたはもう、カラスの仲間になるしかないんだから』
「おはようございます」
「………!?」
「あ、滉!聞いて下さい、大変ですよ!
あの使用人が殺されたんです!」
「…え?それってナハティガルの?」
「決まってるじゃないですか!今、燕野君が現場に行ってますけど、もう絶対これは見せしめですよ!」
「…まぁ、そうだろうな、普通」
「(滉……)」
彼の態度に何らおかしなところはなく、私はやはりあれが悪い夢だったのではと思ってしまう。
「…立花。『恋文(ラブレター)』の話、聞いたよ」
「あ……」
「俺もすげー心配ではあるけど、朱鷺宮さんの言う通り本当の狙いは他にあると思う。もしかしたら今日の死体とあわせて、嫌がらせかも知れないし」
「…そ、そう…」
「ただ、滉だけじゃもしかして複数で襲われたりした時に危険だからさ。今日からは翡翠も同行させるよ」
「……うん」
私は、大丈夫だろうか。今、ほっとした顔をしていないだろうか。
「ごめんなさい。…迷惑を掛けてばかりで、何の役にも立ててなくて」
「そういう問題じゃないだろ。落ち込んでる暇があったらまた稀モノ見つけてこい」
「そうだよね、ごめんなさい。
じゃあ翡翠!…滉、行こう!」
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