第17章 獲物-キョウハク-
───その日の私の顔は、最悪だった。
一睡も出来なかったせいで顔はむくみ、泣き腫らした目は真っ赤だ。
慌てて濡れた手拭いで冷やしてみたものの焼け石に水で、私はみんなへの言い訳を考えなければいえなかった。
「…その顔、どうしたの!」
「紫鶴さん…」
運悪く、朝一番に勘が鋭そうな人に見つかってしまう。
「悪い夢を見てしまって」
そう答えながら、ふと思う。嘘をついているというより、自分にそう言い聞かせているような気持ちだった。
いっそ───昨日の出来事が総て夢なら、と。
「そんな顔になるまで泣いたの?
一体どんな悪夢だったの?」
「…それが、内容ははっきり覚えていなくて」
「ふぅん」
何か言いたげな紫鶴さんの前から、今すぐ逃げ出したかった。これ以上尋ねられた時にどう答えてやるべきか、私は必死に頭の中で組み立てる。
「…昨日さ。僕、要らなくなったものを裏庭で燃やしていたんだよね」
「………え」
「滉が苛立ったみたいに温室から出て来たのを見たんだけど…別に何も関係ないよね?」
「…あ、滉ですか?別に彼なんて…何も」
「そう、ならいいんだ。君は時々あの温室に行っているようだし、諍いでもあったのかと」
「………!」
「顔、真っ青だよ」
「…大丈夫ですよ、ただ少し…夢のせいで寝不足気味で」
「そのスカーフはどうしたの?」
「!」
細かな所も目敏い紫鶴さんに私は、薔子さんから貰った綺麗なスカーフに触れて言う。
「ストールは…失くしてしまって。
親切な方がプレゼントして下さったんです」
「言ってくれれば僕がプレゼントしたのに」
「…相変わらずですね、紫鶴さんは」
「今日は何を作るんだい?」
「パウンドケーキを作ろうかと。丁度、美味しい果物があるのでカットして…」
「そうか。じゃあ、気をつけて包丁を握るんだよ。君の作るお菓子、期待してるね」
✤ ✤ ✤
「…おはようございます」
「…立花」
「!」
作戦室に向かうと、いつもより重い表情の隼人に出迎えられ、私は扉の前で凍りつく。
見れば、朱鷺宮さん、ツグミちゃん、翡翠の表情も同じような顔で私を見ている。
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