第16章 裏切りの夜-シンジツ-
「滉達と別れた後、薬を嗅がされて…」
「…その服って…まさか…」
「違う!!」
私は思わず胸元の布を掻き合わせた。
「何も…され…」
言い掛けて、私は口を噤んだ。
「…ごめんなさい。乱暴…されそうになったの」
「……やっぱり」
「でも、あの!何もなかったから!
な、何とも言うか…服だけ…だから」
こんな服を、こんな自分を見られるのが恥ずかしくなって、私は小さく躰を丸めた。
「…よく、無事だったな」
「それが、良く分からないの。あの薔子さんって人が私の悲鳴を聞きつけて入って来て…何故か…助けてくれたの」
「……え?」
「本当、本当だよ!信じて!
本当に服を…破かれただけだから!」
「…いや、あんたがそう…言うなら」
「………………」
「それで?奴等一体何故そんなことしたんだ?やっぱり警視総監の孫だからか?」
「それもある…けれど」
「それも?他にもまだ何か?」
『貴女には私の子供を産んで欲しいのです』
思い出すだけで、足が強張った。
「あの人…私を妾にしたい…みたいで」
「妾!?」
「子供を…産んで欲しいって」
「な……っ」
「冗談だと思いたいけれど…でも、そんな目じゃなかった」
「子供、って…」
「…本当、です…」
滉は訝しげに眉を寄せ、黙り込んでしまう。
彼の反応ももっともだ。私でさえ、困惑しているのだから。
「あんたは…家柄が良いってだけで、アウラが見える訳でもないだろ。妾にしたいならアウラが見える久世を選ぶ筈だ」
言ってしまおうか。でも信じてくれるか分からなかった。この状況で、真実を口にするのが怖かった。
「私…本当はアウラが見えるの」
「!?」
「と言っても…見えるようになったのは、さっきなんだけど…」
「アウラが見えるって…」
「昔、学生時代の親友を…亡くしてしまって…そのことがショックで元々視えていたアウラを無意識に拒絶してしまったの。でも今ならハッキリと稀モノの区別がつく」
「………………」
優れた血筋…。異人の血というだけで、彼は私を欲しがった。躰がふるりと身震いする。
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