第16章 裏切りの夜-シンジツ-
「いや…嫌だ…っ」
組み敷かれた私と、覆い被さる彼。
その状況が、あの時と重なった。
『や、やっと…君に触れることができた。ずっとずぅーっとボクは君を求めていたんだ!』
『フヒ、ヒヒヒ…。本物の君がボクの目の前にいる。この柔らかそうな肌も!綺麗な瞳も!艶やかな髪も!可愛い声も!全部ボクのモノだ───!!』
『た、助けを呼んでも無駄だからな…!もし抵抗したら君の大事な人達を殺しちゃうからね!』
『ボクの…ボクだけの詩遠ちゃん。君の事は全て知っているよ。だってボクは君のことをずっと見てたし、それに…こ、恋人なんだから何をしたって許されるんだ…っ!』
『き、綺麗な君を汚せるなんてボクはなんて幸せ者なんだ!きっとこの出会いは運命に違いない!だからボクの愛を受け取ってくれるよね?』
「……………」
「おや、急に黙り込んでどうしたのです?」
「わ、私に…触ら、ない…で…」
涙が目尻に浮かび、息が苦しくなる。
「離して…もう…許して…」
触れた場所が気持ち悪い。おぞましくて吐き気がする。我慢していた涙が溢れ出す。
「ごめんなさい…ごめんなさい…っ」
ぐすぐずと泣き始めた私に、四木沼喬の眼が、熱を帯びたように色を含んだ。
「涙を流す貴女も美しい。ですが…このストールは邪魔ですね。貴女の白い首筋が見えない」
「っ!?嫌!それは取らないで…!!」
ばたばたと躰をよじって、逃げようとする。
「駄目!絶対に、それだけは…!」
両手の自由が利かず、どうすることも出来ない私に、四木沼喬は気にする様子もなく、私の首に巻かれたストールを外した。
「!?……これは…驚きましたね」
四木沼喬は首に残る跡を見て目を見開く。
「貴女が人前でストールを外さない理由は…こういうことだったんですか」
「ひっく…見ないで…っ」
「これは…見るに耐えない」
「っ!!」
「でも安心して下さい。貴女のその悍ましい跡を隠すような、最高級の絹で仕立てた美しいドレスを着せてあげましょう」
「……………」
「そして貴女のその白い肌に映える宝石を選びましょう」
「何を…言ってるの…っ!」
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