第16章 裏切りの夜-シンジツ-
「私が殺した…?」
あぁ…だから長谷君は…
茜色のピアスに約束させたのか
「(私のせいだ。)」
私があの本を見つけなければ
手に取らなければ
瑞希が死ぬことはなかった
「(そういうことなんでしょう…?長谷君。)」
何故彼が稀モノのことを知っていたのかは分からない。でも彼は最初から知っていた。あの赤い本が、黒い本が、稀モノであることを。
「(そしてあれは確認だったんだ。黒い本を差し出して、私にアウラが視えているかどうかの…)」
だから彼は『…やはりな』って言ったんだ。私にアウラの能力が消えていることに気付いたから。
「(っ…なんて、滑稽なの…。)」
長谷君、君は一体何を隠しているの?
どうして稀モノの存在を知っているの?
何であの部屋に稀モノがあったの?
その答えを知る本人がこの世界にはいないのが悔しくて堪らなかった。
「素晴らしい。
貴女も『選ばれし者』ということですね」
彼は満足そうに目を細めた後、まるで私を品定めするかのように視線をあちこちに這わせる。
「私はね、優れた血を持つ者が大好きなんです」
「す、優れた…血?」
「しかも貴女は立花家の令嬢だ。例え血は繋がってなくとも、異人の血というのは大変珍しい。加えて貴女のその容姿は価値がある」
「………!」
「褒めたつもりですよ。世の中には卑しい血が流れる者もいますからね」
「卑しい…?」
困惑する私の腕を強く掴んだ四木沼喬は、そのまま私をベッドに押し倒した。
「きゃ……!?」
「貴女には私の子供を産んで欲しいのです」
「…な、何を!?」
「正確には……───四木沼の血を引く子、ということになりますが」
「ば、馬鹿なこと言わないで下さい!
貴女は結婚して…!」
「そうです、妻がいます。彼女のことも愛しています。ただこちらにも少々事情がありましてね。条件を満たしている貴女に巡り会えたことを感謝しなければ」
「条件…!?」
「大事にしますよ。強気な女性を手懐けるのも、悪くありませんからね」
「…い、や…」
顔が真っ青に染まる。
「!」
触れられた事に恐怖感が襲い、声と身体が震え出す。
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