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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第16章 裏切りの夜-シンジツ-



『瑞希、紅茶淹れてきたよ』



ティーカップを二つ持ちながら、瑞希の待つ書庫部屋へと戻るが…



『あれ?』



そこに彼女の姿は、なかった。



『いない?部屋から出たのかな?』



私はカップを机に置いて瑞希の帰りを待つ。あの時はトイレにでも行っているんだろうと思って、深くは考えず、本を探す事にした。



『(月には何があるんだろう?いつか好きな人と本当に月に行けたら…素敵だな。)』



本棚なら月に関する本を探していると、ふと、ある場所で視線が留まる。



『(ん?)』



私はその本棚に近付き、驚いた。



『あの本がない…!!』



一冊だけ、そこから抜き取られた空洞が出来ていた。炎のように燃えていた不気味な赤い本は確かに此処にしまってあったはずだ。



それなのに、その本が無くなっている。



『何で!?どこに消えたの!?』



その時、開けっ放しの窓が目に入った。そこから入り込んでくる風が、真っ白なカーテンを心地良く揺らしている。



ただ、それだけなのに……。



『(この胸騒ぎは何なの。)』



ドクンドクンッと心臓が速まり、嫌な予感が止まらず、体が震え出す。



『……………』



消えた赤い本と、いなくなった彼女。



導かれるように、私の足は窓際に向かう。



『ハァ…ハァ…』



恐怖で顔が強張り、動悸が激しくなる。



私の耳を突き抜けるのは、風の音だけだ。



『……………』



近付いたものの、何故か怖くて、窓の下を覗けない。そんなはずはないと知っているのに、頭では全く逆のことを思っていた。



『("そんな筈ある"と…。)』



もしかしたら彼女は…と。



『瑞稀……』



ぎゅっと目を瞑り、意を決して窓から顔を出し、そろりと目を開けて、下を見た。



『っ、いやぁあああああ……───!!!!』



頭から血を流して倒れている瑞希がいた。



『瑞希!!瑞希ぃ…!!』



あまりの衝撃にパニックを起こし、瑞希に向かって叫ぶが、彼女は何の反応も示さない。



『何で…どうしてぇ…っ!!』



私は泣き叫ぶことしかできなかった。



『っ!?』



そして、はっきりと思い出した。



彼女の側には、炎のように燃えるあの赤い本が落ちていた───。



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