第16章 裏切りの夜-シンジツ-
「(もっとも、この男の言葉なんて信用するのは危険だけれど…)」
私はゆっくりと深呼吸した。
気を抜くと震え出しそうで、ぐっと奥歯を噛み締め自分を励ます。
「…では、一体何のためにこんなことをしたの?」
「夜は長い。葡萄酒でも飲みますか?
丁度いいものが手に入ったのですよ」
「…生憎と、未成年なものですから」
「はは、真面目なお嬢さんだ」
見たところ、部屋には彼以外誰もいないようだった。
「(ここって…もしかして…ナハティガルの貴賓室…?)」
「葡萄酒がお好みでないなら、何か甘いお菓子と紅茶でもご用意しましょうか?」
「…結構です」
「おや、貴女は甘い物と紅茶がお好きだと聞いたのですが、違いましたか」
「…貴女の目的は何ですか。
一体何故こんな真似をしたんですか」
「つれない方だ」
「…目的は何ですか、と聞いているんです」
「…そうですね、一言で説明するなら、フクロウを抜けて仲間になって欲しい、でしょうか?」
「…な、仲間!?」
「貴女のその金の髪と空色の瞳はとても珍しい。世の男達が黙っていないでしょう。ですから…お嬢さん、私は貴女が本気で欲しいのです」
「……………」
「他の男に、貴女を汚される前に。私が貴女を奪って、誰の目にも触れさせぬ場所で、貴女を愛したいのですよ」
「…そんなの、絶対にお断りです。貴女の言う愛は、狂っています。私を誰の目にも触れさせない場所に閉じ込めて…永遠に監禁するつもりですか」
「ええ、そうするつもりです」
「…それだけの価値しかない私を、欲しいだなんて、おかしい…」
「それだけではありません。貴女は、ずっと視えているんでしょう?」
「…な、何を…ですか?」
「……───稀モノのアウラが、ですよ」
「!!?」
彼の言葉に、私は衝撃を受けた。
「…視えません、アウラなんて…」
驚きを隠せない表情で言う。
「嘘はいけませんね」
「嘘なんかじゃありません!
本当にアウラなんて視えないんです!」
「貴女は元々アウラが視えるのですよ」
「……え?」
「ですが貴女は過去に起きた"何か"がきっかけで、アウラを視る事を無理やり拒絶してしまった」
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