第16章 裏切りの夜-シンジツ-
「…立花!本当に気をつけろよ!
絶対に独りになるなよ!」
「分かってます!大丈夫!」
そうして二人が歩き去るのを少し眺めた後、私は目と鼻の先にあるバス停に向かう。
「(いいなぁ…私も会いたい。)」
でも私の場合は、会いたくても会えない人達ばかり。そもそも…この世界では、私のことを知る人間は誰一人いない。
「…………?」
ふと、路地裏に蹲る女性の影があった。
酔っている様子はない。
「あの、大丈夫ですか?」
「…済みません、大丈夫です。
ちょっと立ち眩みがしてしまって…」
「あ、無理なさらない方がいいですよ。
少し休…」
「いえ、大事な用が…あるものですから」
女性が力なく立ち上がった───その瞬間。
「……う、ぐ……!?」
背後からいきなり羽交い締めにされ、口に布が押し込まれる。何か薬のような嫌な臭いがして、すぐさま意識が朦朧とし始める。
「……離し……っ」
必死に手足をばたつかせるも、まるで力が入らない。
「何だ、フクロウの小娘を捕らえるなんて言うから身構えてたけど、てんで弱いじゃないか」
「全くだ。よし、車に運ぶぞ」
「い、や……」
…こんな…誰か…助け…
あき、ら……─────
✤ ✤ ✤
「……う、ぅ……っ」
「お目覚めですか、お嬢さん」
「…え…あ!?きゃ……っ!?」
起き上がろうとして、私はそのまま無様にベッドに突っ伏した。両手が縄できつく縛られている。
「手荒な真似をして申し訳ありませんでした。でも…貴女がいけないのですよ。私の恋文を無視した、冷たい貴女が」
「………!?」
すぐ側の椅子から、彼がベッドまで歩み寄って来る。
「手紙では私の思いが伝わらなかったようなので、こうしてお招きした次第です」
「…お招きした割には、随分と手荒な真似をしてくれましたね。こんな強引に…」
「貴女が私の恋文を無視しなければ良かったのですよ。そうすれば拘束せずに済んだのです」
「…縄を、解いて下さい」
「そう焦らないで下さい。何も貴女の命を奪おうというわけではないのですから」
その言葉に、取り敢えずの安堵が浮かぶ。
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