第16章 裏切りの夜-シンジツ-
事情が事情とはいえ、美沙宕さんのことも気掛かりの一つに加わってしまった。
そして何も見つからないまま陽は暮れ────。
「(7時……)」
空は紺色に染まり、星が散らばっている。
「ねぇ滉、ちょっとデパートに行きたいの」
「デパート?いいけど珍しいな」
「着替えようと思って」
「……まさか」
「そう!私服!私なりにやり方を考えてみたの。遅い時間にお店に行くと目立つでしょう?中には私服の私だけ入るようにすれば」
「…あんた、妙な方向に悪知恵働くな」
「悪くありません!」
「はいはい」
✤ ✤ ✤
デパートで無事に着替えを済ませ、三軒目の店から私が出て来た時だった。
「おい!鴻上!鴻上じゃないか!」
「………っ!?」
「おいおい!俺だよ、忘れたのかよ!」
「…あ、いや……田淵だよな」
「そうそう、良かった、覚えててくれたか!懐かしいな、何年振りだ!?」
「…お友達?」
私が小声で問うと、滉は頷いた。
「明後日までトウキョウにいるんだ!良かったら今から飯でも食わないか?」
「…あ、いや、でもまだ仕事中で…」
彼がちらりと私を見た。
久し振りの友達…
きっと話したいことも沢山あるよね
「滉、せっかくだし食事してきたら?私、今日はこのままアパートに戻るから。バスに乗って帰るだけだし、独りでも平気。ほら、バス停もあそこに見えてるし」
「でも、この間誘拐されそうになったのだってその降りてからアパートまでの道だろ」
「…じゃあ、走る」
「走るって…」
「せっかく久し振りに会った友達でしょう?そんなに心配なら、バスを降りたところで管理人さんに電話する。それならいい?」
「…いや、でも…」
「…そんなに信用出来ない?」
「いや、そういうわけじゃ…」
滉が横で笑顔を浮かべている青年を見遣る。
「…分かった。じゃあ、そうしてくれるか」
「うん、じゃあね」
「済みませんお姉さん!
ちょっと鴻上のこと借りますね!」
彼は笑顔でそう言い、滉の背中を押す。
「(図書館に行って調べ物しよう…)」
歩き出そうとしたその時、不意に滉が振り返って叫んだ。
.