第15章 恋文-ヤクソク-
「……なっ」
「立花!?」
「……──甘くて結構」
掌がじんじんと痺れ、痛み出す。
「確かに私は世間知らずで、貴方から見たらものを知らない子供かも知れない。だから自分の命を蔑ろにするような発言は許せないの」
「……………」
「死ぬって意味が分かってるの!?もう二度と誰とも…会えないってことなんだよ」
脳裏に、あの日の記憶が蘇る。
死ぬ直前まで、普通に会っていた友達が、突然いなくなる。好きなことで笑いあって、幸せな時間を過ごしていた。
でも…それが何の前触れのなく突如、目の前から奪われる。
「一緒にご飯も食べられないし、手紙も書けない、この手で触れることだって出来ない。どんなに会いたいって泣き叫んでも…それは永遠に叶わない」
想像するだけで胸が苦しくなる。大切な人に二度と会えない悲しさと辛さ、いろんな感情がぐちゃぐちゃになって、抜け殻みたいになってしまう。
「映画だって…もう一緒に観られな…」
言葉の最後、遂に涙が溢れてしまって私は慌てて瞼をきつく擦る。
「私はもう…絶対に誰かを失うのは嫌なの。大事なものを…失いたくないの」
「…………っ」
「だからもう二度とそんなこと言わないで!」
ほんの一瞬。彼の瞳に憎悪めいたものが滲んだ。そして────。
「……──悪かったよ」
──ああ、またこの顔だ、と。
ばつが悪そうに、少し所在なげに彼は息を吐く。
もう何度も、こんな彼を見た。
まるで、私が彼を傷つけている気がして何も言えなくなる。
「…失礼します」
「あ……」
追い掛けようとして、私は踏み止まった。自分が冷静ではないことは分かっていた。
「あいつは最近少しおかしいな」
「……え?」
朱鷺宮さんは煙草を唇に挟み、マッチを擦った。
「確かに、入った時から人付き合いがいいとは言えない奴だったけど…あそこまで自虐的ではなかった」
「自虐的…」
言われてみて、確かにそれは先刻の彼にしっくりくる。
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