第15章 恋文-ヤクソク-
「きっとそう言ってくれると思ってたよ。
となると、どんなやり方でいくか…」
「……──俺があの店に潜入して目的を探りましょうか」
「滉!?」
「結局、この間も情報らしい情報は得られなかったし。…ああ、隼人を責めてるんじゃないですよ。あんな店だし、ちょっと中をうろついて何か分かる程、甘くはないと思うんですよ」
「それはまぁ…そうだが」
「表からはまず無理だし、あの裏口から今度は俺が使用人に変装して入り込みます。応援は要りません、見慣れない顔が何人もいたら逆に気付かれそうなんで」
「…そんな」
何処か冷めたその表情に、一抹の不安が過ぎる。
「応援が不要とは、大した自信じゃないか、滉」
「自信なんてないですよ。ただ誰が適役かなと思った時に俺が一番だろうと」
「理由は?」
「久世と立花と翡翠は論外だし、俺か隼人ですよね。でも万が一失敗した時…隼人が消されたら痛手でしょう」
「!?」
私は自分の耳を疑った。
それではまるで────。
「自分なら死んでもいい、そう言っているように解釈出来るが」
私が思っていたことを、朱鷺宮さんがそのまま口にする。
「そこまでは思ってませんよ。ただ何かを得るために犠牲が必要な場合もあるでしょう」
「…滉…」
思わず咎めるような声を上げてしまった私を、ほんの一瞬だけ彼が見た。冷めたような、何処か蔑むような眼差しで。
「…俺は別に死ぬようなことがあっても誰にも迷惑は掛けないし、今の面子の中だったら一番不要…」
「馬鹿なこと言わないで!!」
気付くと、私の唇が勝手に叫んでいた。
凄まじい怒りと、恐らく悔しさが瞬く間に私を焼き焦がし、息が苦しい。
「…そんなこと、本気で言ってるの?」
「今、冗談なんて言ってる場合じゃないだろ」
「………!?」
「華族のお姫さんの甘い考えじゃ駄目なことだってあるんだよ。俺達が相手にしてるのは…他人の命なんて何とも思ってない奴等なんだから」
「な……っ」
「もし、俺一人の命でカラスが潰せるなら安いくらいだよ」
「…………!」
彼の頬を引っ叩いた。
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