第15章 恋文-ヤクソク-
「(フラれたんだろうか?)」
「あそこの女将に駆け落ちじゃないかって疑われてしまって」
「………………」
「僕が出入り禁止になりそうなんだよね。それで杙梛に連れ出してくれって頼みに来たのもあるんだ」
「色男は違いますね」
「(日頃の行いのせいでもあると思う…)」
「はは、いつぞやの意趣返しのつもりかい?これでも僕は僕なりに、君達に協力してるつもりなんだけどな」
「分かってますよ、今回の件だって紫鶴さんのお陰で繋がったわけですし、そこは感謝してます」
「…こんな時、僕はあそこに暮らしているのにやっぱり本当に部外者なんだなぁと思うよ」
「紫鶴さん…」
「カラスとかいう奴等のことは栞から聞いたよ。……全部ではないかも知れないけど。君達も本当に気をつけるんだよ?怪我くらいならともかく、僕はまだ知人の葬式で線香を上げたくない」
「大丈夫です、気をつけますから」
「そういう君が一番不安だよ。滉、この子が危険に巻き込まれないようによろしくね」
「……はい」
「というわけだ。俺ちょっと行ってくるから紫鶴、店番頼むな」
「ああ、行ってらっしゃい」
いつものように本を探し、そして残念なことにいつものように本はなく────また一日が終わろうとしていた。
「…杙梛さん、ちゃんと美沙宕さんを温泉に誘えたかな?」
「うまくやるだろ。そのへん抜かりなさそうな人だし」
「だよね」
「…妙にほっとした顔してるけど、まさかあの美沙宕って奴にまで肩入れしてるのか?」
「肩入れって…だって、心配でしょう?」
「…つくづく、とことん、おめでたい」
「な……!」
「笹乞ならともかく、一回会ったきりの、ちょっと擦れ違った奴みたいなもんじゃないか」
「…擦れ違っただけ、ではないと思う。ああして話したし、紫鶴さんと杙梛さんの知人でもあるわけだし。それに…心配なんだもの」
「お節介、お人好し、世話好き」
「…そんな言い方は、非道いと思う」
「本当のことだろ」
「………………」
「あんたさ、そうやって他人の心配ばっかりしてるけどさ、自分の立場…一応覚えてるよな?」
「え?あ……」
.