第15章 恋文-ﾔｸｿｸ-

「……………」



その冷たい瞳に、何も言えなくなる。



「瑞希が死んだのにお前だけが幸せになろうとするのか。僕を不幸にして、瑞希の死を忘れて、心に決めた相手との幸せを求めるのか」



「そんなつもりじゃ…！」



「僕はお前の幸せを望まない。僕達を置いて自分だけ幸せになるつもりなら…何処にも行かせないよう永遠に閉じ込めてしまおうか」



掴まれた耳朶が痛い。長谷君の放った言葉は決して冗談には聞こえなかった。



「さぁどうするんだ詩遠」



「っ……誓い、ます……」



「何をだ」



「私は…長谷君と瑞希を残して一人だけ幸せにはならない。君達を不幸にしてしまうなら…幸せなんか望まない。茜色のピアスに誓って…約束、する。」



すると漸く長谷君はピアスから手を離す。



「このピアスに込められた誓いは"約束"でもあり、"罪"でもある。忘れるな詩遠。もしお前が幸せになろうものなら、僕はお前の幸せを壊し、その相手に罰を与えよう」



「！？」



「しっかりその身に刻んでおけ」



「……………」



私は無意識に顔をしかめ、長谷君を睨むような眼差しを向けた。それを見た長谷君は怒りを鎮めた声で冷静に言う。



「詩遠…お前は僕が嫌いだろう？」



「嫌いじゃないよ。長谷君は私の大事な友達だよ。嫌うなんてありえない」



「そうか、なら質問を変えよう。お前は…演技で役に入っている時の僕が嫌いだろう」



「！」



「他人を演じる僕はお前の知る僕じゃない。その役に合った仮面を被り、カットが掛かるまで演じ切るのが僕の役者としての義務だ。そしてそれは同時に覚悟でもある」



「覚悟？」



「僕はこれまでにたくさんの役の仮面を被り続けてきた。だがたまに、どれが本当の自分の顔なのか、分からなくなる時がある」



「長谷君…」



「今、お前と話している僕は本物の僕か？それとも、偽善を装った偽物の僕か？」



「……………」



「お前と瑞希が友と慕っている僕は、ちゃんと仮面を外して、死んだ瑞希の死を労り、悲しむお前を慰めてやれているか？」



涙の跡が残る、悲しい表情で私は長谷君を見つめる。



「分からない…」



「！」



絞り出した声はどこか切なかった。



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