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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第15章 恋文-ヤクソク-



泣き喚く私の側に歩み寄った長谷君は、片膝を立ててしゃがむと、私の頭に優しく手を置いた。



「もう泣き止め」



「っ…………」



「あまり自分を責めるな」



「長谷君…」



「あの事故が起こるまで、お前達は書庫にいたのか?」



「うん…あの日は読書をしながらのんびり過ごそうって話になって…」



「その時点で瑞希に変わった様子は?」



私は首を横に振る。



「どんな些細な事でもいい。彼女が見たもの、聞いたもの、触れたもの。何か覚えていないか?」



「…そういえば」



「何だ?」



「不思議な本を見つけたような…」



「不思議な本?」



「…うん」



「どんな本だったんだ?」



「えっと…赤い本だった気がする」



「!赤い本…?」



「(それ以外は何も思い出せない…。)」



「……………」



長谷君は何かを考え込むように指先を顎に添える。



「長谷君…?」



「詩遠、事情聴取を受けた時に警察から何か聞かされていないか?」



「え?」



「例えば…落下した瑞希の周辺に落ちていた物とか」



「ううん…何も。でも瑞希の側には何も落ちてなかったよ。もしかしたら私の見落としかも知れないけど…あの時はそんな余裕なかったから」



「そうか」



「ねぇ長谷君…」



「どうした?」



「私…瑞希が飛び降り自殺を図ってしまうほど悩んでいたなんて知らなかった」



「誰にでも悩みの一つや二つはある。普段は明るい彼女にも、僕達には相談出来ない程の悩みを抱えていたんだろう」



「…それでも相談してほしかった」



私は瑞希の遺影写真を見つめる。



「そうすれば、瑞希を救えたかもしれなかったのに」



悔しくて腹が立った。



「詩遠、あの本の事は誰にも話すな」



「え…?」



「何を聞かれても知らないと答えろ」



「…どういうこと?」



「お前が知る必要はない」



長谷君の声に鋭さが増した。茜色の瞳が冷たさを帯び始め、私は小さく体を跳ねさせる。



「ところで、お前はどんな本を探すつもりだったんだ?」



「月に関する本だよ。いつか月に行きたいって思ってるの」



「…月に?」



彼は少し驚いた顔で言った。



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