第15章 恋文-ヤクソク-
「ひっく…ひっく…」
誰かのすすり泣く声がする。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
申し訳なさそうに何度も謝罪を繰り返す。
「本当にごめんなさい…っ」
あぁ…泣いているのは───私だ。
「瑞希……!」
涙を流し続けた双眸は真っ赤に腫れ、何度も謝罪する口から発せられる声は掠れていた。
棺桶の中には、大事な友達が眠っている。彼女はもう二度と…目が覚めることはない。私はその棺桶に縋り、深い悲しみに囚われる。
「どうしてこんなことに…!」
今更後悔しても遅いことは知っていた。泣いて縋っても…彼女が生き返ることはない。それでも私は泣かずにはいられなかった。
「あああ…っ、瑞希…ひっく…瑞希ぃ…!」
真っ黒な喪服に身を包み、綺麗な顔で笑う彼女の遺影を見て、またくしゃりと泣き顔を歪める。
「詩遠」
後ろから静かに名前を呼ばれ、涙で濡れた顔で振り向く。
「───長谷君…。」
そこには茜色の瞳を悲しげに揺らした彼がいた。
同じように喪服を着た長谷君は、瑞希の遺影写真をじっと凝視める。
「は、せく…ごめ、ん…」
「何故お前が謝る」
「だって…私が…」
ボロボロと大粒の涙が溢れ落ちる。
「私のせいで瑞希は…っ!」
「彼女は自殺だった。窓から飛び降りたのも自分の意志だった。だから───」
茜色の瞳が遺影写真から私に向けられる。そして彼は優しい笑みを浮かべた。
「お前のせいではないよ」
そう言った長谷君は微笑んではいるけれど、眼はどこか遠くを見ているように、何も映していない。
「う…うぅぅ〜…!」
私がまた泣いても、長谷君の瞳は瑞希の遺影写真に戻される。
「ちゃ…ちゃんと注意したの…っ、窓から身を乗り出すと危ないって…っ。でも…紅茶を淹れ終わって部屋に戻ったら…瑞希が…っ」
私は両手で顔を覆う。
「お前がどんなに泣き叫んで謝罪を口にしようが、彼女はもうこの世にいない」
「っ!」
「僕が留守にしなければ良かったんだ。瑞希が死んだのは僕の責任でもある」
「違う!長谷君は悪くない!私が…!紅茶なんて淹れに行かなければ…本を探すのを止めていれば…瑞希は死なずに済んだの…!」
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