第14章 幾つもの囀り-フイウチ-
「えっと…女将さんに少しだけ。
でも詳しいことは話してません」
「ならもう絶対に誰にも話さないで下さい」
「分かりました。ところであの…柄長さんとはお知り合いなんですか?」
「!」
「いえ、そういうわけではないんです。ただ俺達が調べているものと、柄長さんが関わっている可能性があって、そのあたりは詳しくお話し出来ないんですが…申し訳ありません」
「そうですか…。じゃあ、飛び降りた理由なんか分かりません?もし私があんなこと言った腹いせに自殺したとかだったら…哀しいですもん」
✤ ✤ ✤
「紫鶴さんの女好きも役に立つことがあるんだな」
「そ、そうだね…」
「まさかこんな形で…あの男に繋がるとはね」
もちろん、美沙宕さんには口封じで殺された可能性があります、とは言えなかった。
飛び降りたのではなく、誤って落ちたらしい───そう誤魔化すので精一杯だった。
「沢山の金を積んだってのは間違いなくオークションのことだろうし、新しい情報ではないにしろ…大事な証言になるんじゃないか。今夜はそのナハティガルに行かなきゃならないし、戻ったら朱鷺宮さんと相談だな」
「そうだね」
「もしかしたら何処からか話が洩れて…今度は彼女が殺されるかも知れないし」
「滉!?」
「可能性はあるだろ」
冷静に告げられ、私は返す言葉もなかった。
✤ ✤ ✤
『肉筆ノ和本持チ込ミオ断リ』
「これ…」
その後、いつもの書店に向かった私は、硝子戸の張り紙に気付き言葉を失う。
「この前来た時にはこんなもの貼ってなかったよな。何かあったのか」
戸を開けて中に入り、店主に声を掛ける。
「こんにちは。あの何かありましたか?」
「………あ。」
「表の張り紙…見たのですが…」
「どうも、お疲れ様です。事件がとかがあったわけじゃないですよ。ただ、このところずっと考えていたんです。でもほら…例の首相さんの息子さんの、笹乞さんが書いたものなんですよね?」
「!」
「あの人を責めるつもりはないんですが、あんなことがあると、その…やっぱり店で和綴じ本を取り扱うのが怖いんですよ」
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