第13章 月に憧れて-ユメ-
「今晩は」
「貴方は…!」
「せっかく二人でいるのに邪魔してはならんと思ったんだが、見かけたのでつい声を掛けてしまった」
「おじいさん!?」
話し掛けてきた人物に驚いた。彼は、ウエノ公園のベンチで出会ったおじいさんだった。
「この間は素敵な夜を有難う。おかげで有意義な時間を過ごせた。実はワシもあの映画館におったんだよ」
「え……!」
「その時に声を掛けようと思ったんだが、なんだか楽しそうだったのでな、声を掛けるのは止めたんじゃよ」
「そ、そうだったんですか」
おじいさんが、ちらりと、滉を見た後、穏やかな笑みを私に向けた。
「仲がよろしいことで」
「え、や、あの、違…」
「仕事仲間ですよ」
「…………!」
「……おや」
「俺なんかが相手じゃ立花が可哀想です。誤解しないで下さい」
「…おやおや」
おじいさんはしげしげと滉を眺めた後、何故か穏やかな笑みを見せる。
「ワシはてっきり、映画館で男性が女性の隣に座るのは下心がある時だけと思っていた」
「(何を言い出すの、おじいさん!?)」
「そんな男ばかりじゃないですよ」
「そうじゃったか、それは済まんかった」
「そもそも彼女にしてみたら、映画は気分転換なんじゃないですか。先日誘拐されかかったので」
「誘拐…」
「え!?あ、あ、あの無事だったので!この通り何処も怪我などもしておりません!ですから心配はご無用です…!」
「ふむ…実は娘さんを怖がらせないために敢えて黙っていたことがあるんじゃが…」
「え?」
「あの夜、木の陰に隠れて娘さんのことをジッと見ておった怪しげな男がいたんじゃよ」
「!?」
「何もされなかったから良かったものの、もしあの場で襲われていたらワシと娘さんに勝ち目はなかった」
「(怪しげな男?あの夜に…?)」
「その怪しげな男がもしかすると娘さんを誘拐したのかも知れん」
「え!あの…!」
「…………?」
慌てる私を見て、滉が不思議そうな顔をする。
「映画なんかでもよくある話じゃ。娘さんに一目惚れをして、ずっと一人になる機会を伺っておったんじゃよ」
おじいさんの言葉にビクリと体が跳ねる。
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