第13章 月に憧れて-ユメ-
《その者がお前の心に寄り添い、幸せを望めないお前を愛し、茜色のピアスを外してくれると信じておる。》
「……………」
《済まなかった、これから仕事なんだろう?》
「もう出ます」
《そうか。車には気をつけるんだぞ、知らない人についていかないこと。何かあれば儂を頼りなさい。これでも警視総監だからな、いつでもお前の力になろう。》
「有難うございます。それと連絡をくれて嬉しかったです。近いうちに顔を出しますから、おじい様も時間を見つけて来て下さいね」
《あぁもちろんだ!その時はお前の好きなスイーツでも買って迎えよう。》
「それは楽しみです」
《それじゃあ、行って来なさい。》
「はい、行って参ります」
私は電話越しでおじい様に見送られ、ホールを出た。
✤ ✤ ✤
「おはよう」
「お、おはよう!」
門の前に立っている滉を見た瞬間、再び昨夜の感触が蘇った。自分でも驚く程、はっきりと。
「(…どうしたの、私。)」
思わず、小さく後ずさってしまう。
「(平常心平常心…)」
私が呪いのように心の裡で唱えていると、彼が訝しげに私を眺める。
「…泣いた?」
「え!?」
「目が潤んでる」
「……………」
「何かあったのか?」
「あのね、さっき家族と電話で話したの。久しぶりだったから感極まっちゃって」
「家族って…立花宗一郎?」
「うん。こっちの生活はどうだとか、上手くやれているかとか、ご飯はしっかり食べているかとか…そんな他愛もない話だったんだけど」
あの日以来、会うことも電話もしなかった私は忙しい所為もあってか、おじい様に連絡するのを忘れていた。
久し振りに聞いた声は、いつもと変わらずに豪快で、優しさを含んでいた。
「大切にされてるんだな」
「そうだといいな。おじい様は、どこか父に似ているから安心できるの。こんな私にも優しくしてくれて本当に感謝してる」
「そうなんだ」
「時間が出来たら、会いに行こうと思う」
「いいんじゃないか。ところで…あんたの家ってどの辺だったっけ?」
「えっと…ギンザ、だけど…」
「あそこって高級住宅街が多いよな」
「そうだね…それがどうかした?」
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