第13章 月に憧れて-ユメ-
《儂のことなら心配いらん。こう見えて体は丈夫に出来ておる。早々体調など崩さんよ。》
「流石はおじい様です。最近は稀モノ絡みの事件も多発しています。そちらも大変でしょうけど…本当に色々と気を付けて下さいね」
《…稀モノか。》
「おじい様?」
《いや、何でもない。》
「(あまり深く聞くのは良くないな…)」
私がおじい様の仕事に口を出す権利も、それを知る権利もない。それにあまり深追いし過ぎて、こちらの立場が危なくなっては困る。
《詩遠よ、まだ自分は幸せになってはいけないと思っているか?》
「…急にどうしたんです」
《もう良いのではないか?自分の幸せを許してやっても。儂はお前には幸せになってほしいと思うておるよ。》
「……………」
《『この世界に幸せになってはいけない人間などおらん』『人は誰かに愛され、誰かを愛する為に生まれてくる』。儂はあの時お前にそう言った。》
「えぇ…覚えています。おじい様が私を心配して言ってくれている事も分かっています。でもごめんなさい…それでも私は自分の幸せを望めないんです」
《……………。》
「私が自分の幸せを許せる立場じゃないんです。あの人が…私の幸せを許さない限り、私はずっと…幸せにはなれないんです」
《…その者はどうしたらお前が幸せになることを許してくれるんだ?》
「…鳥籠から逃げるのをやめた時、です」
《鳥籠?》
「……………」
空を自由に飛ぶことを諦めれば、"あの人"は私の幸せを許してくれるかも知れない。でもそれは…鳥籠から一生出さないという事だ。
《…お前の過去に何があったのかは聞かん。だがその者がお前の幸せまで縛る権利はないと思っている。》
「でも私が幸せを望んだら…あの人を不幸にさせてしまう。それは嫌なんです…」
《お前の耳に付いている茜色のピアス。それは"約束の誓い"だと言っておったな。》
「はい。同時に"罪の証"でもあります」
《罪の証…?》
「私は許されない罪を犯しました。その意味も含めてのピアスでもあるんです」
私は茜色のピアスに触れる。
《儂はな詩遠、必ずお前を幸せにしてくれる男が現れると思っている。》
「!」
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