第13章 月に憧れて-ユメ-
「あ、立花さん!良かった、まだいた!電話ですよ、電話!」
「…私に?」
部屋を出たところで、アパートの管理人さんが小走りで近付いて来た。
「宗一郎さんって言ってますよ、さぁ早く」
「おじい様?」
何の用だろうと思いつつ、私はホールに向かう。
「お電話変わりました」
《おお!久しぶりだな!
我が愛しの孫娘よ!》
「…おじい様、声が大きいです」
《わっはっは!それはスマンかった!》
本気で悪いと思っていない様子で、おじい様は相変わらず豪快に笑う。少し受話器を離して、おじい様の声を遠ざける。
《どうだ?上手く馴染めておるか?》
「ええ、大丈夫ですよ。皆さん良い方ばかりで助けられてます」
《うむ!それは何よりだ!》
「それで何のご用ですか?」
《大した用でもないんだが…お前の様子が気になっただけだ。何せ、大事な孫娘が遠くにいるものだからな。》
「…おじい様」
《私のせいで何か困った問題が起きてないかとか、いじめられていないか、とか…。たとえ血の繋がりが無くとも、お前のことは本当の家族のように思っている。だから余計に心配なのだよ。》
「ご心配して頂き有難うございます。ですが先程も申し上げた通り、フクロウの皆さんはとても良い方ばかりです。何も不自由なことはありませんよ」
《そうか…なら安心だ。食事はちゃんと摂っているか?好き嫌いはしてないか?残さずしっかり食べて…》
「大丈夫です。ちゃんと食べていますし、掃除も洗濯もしてます。安心して下さいな」
《…お前がいないと家の中が寂しくてな。使用人達も寂しがっておるよ。たまにで良いから…顔を見せに帰っておいで。》
「はい…」
《葉織もお前に会いたがっておったしな。》
葉織は私の従姉妹で、英語が得意な11歳の女の子だ。舞台女優になる夢を持ち、スクールにも通っている。最近はあまり会えていないけど私にとても懐いてくれている。
「そうですね、あの子にも会いたいです」
《もし体調を崩したら無理せず休む事。お前はそれを誰にも言わないからな。儂は心配です!》
「ふふ、大丈夫ですよ。ちゃんと体調管理はしています。おじい様こそ体調には気を付けてお仕事をなさって下さいね」
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