第13章 月に憧れて-ユメ-
「………ん」
ゆっくりと瞼を開けると、そこは見慣れた天井だった。
「あれ…私…」
まだ覚醒してない頭で首だけを動かして辺りを見回すと、そこはフクロウのアパートである自分の部屋だった。
「夢……?」
ベッドから上体を起こし、茫然とする。
「なんの夢…見てたんだっけ…?」
直前まで視ていた夢の内容を思い出せず、首を傾げた。
「…あんまり良い夢じゃなかった気がする」
表情を沈ませ、制服に着替えると、朝食を作るために台所へと向かった。
✤ ✤ ✤
「あ、いた!」
「?」
いつものように朝食をとっていると、翡翠とツグミちゃんが顔を覗かせた。
「おはよう二人とも。そんなに慌ててどうしたの?」
「今、栞さんから聞きました!
誘拐されかかったそうですね!?」
「!!」
「大丈夫だったの、詩遠ちゃん…!」
その瞬間。何故か昨夜の滉の感触が浮かんで来て、私は慌ててそれを追い払う。
「うん、大丈夫だったよ。…誘拐されかかったことには驚いたけど…もう平気。でも気をつけるようにするね」
「怪我とかしてない?」
「有難うツグミちゃん。大丈夫だよ」
「うーん…やっぱり女性ってこういうことがあるんですね…」
「そんなこと言っても仕方がないし」
二人が心配してくれているのはちゃんと分かっている。ただ安心しているのだ。誘拐されかけたのがツグミちゃんじゃなくて良かったって。彼女はこの世界に大切な友達がいる。そしてフクロウの仲間がいる。
彼女が危険に晒されれば、きっと彼らは悲しむ。だから私で良かったのだ。
「それよりももしカラスの仕業だとしたら、みんなにも何かあるかも知れない。翡翠達も気をつけてね。特にツグミちゃんは女の子なんだから」
「そうですね、注意しておきます」
「私も…気をつけるわね」
「あ、そうだ。冷蔵庫にさっき作ったプリンがあるの。良かったら後で食べてね」
「詩遠ちゃんの手作りプリン!」
ツグミちゃんは先程までの心配そうな顔から、ぱっと変わり、嬉しそうに笑った。
「有難うございます、後で頂きますね」
翡翠にお礼を言われ、私はニコリと笑みを浮かべた。
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