第13章 月に憧れて-ユメ-
「あれ?読まないの?」
「うん…違うの探す」
「そうした方が良さそうね。赤い本なんて…呪われそうで怖いわ」
「さ!あっちの本棚に行こう!」
瑞稀の背中を押して、その本棚から遠ざける。ちらりと後ろを見ると、まだ赤い本は燃えるように光を放っていた。
「それにしても今日は暑いわね。夏でもないのにこんなに蒸し暑くてどうすんのかしら」
「そういえば此処に来る前、首にストールを巻いて歩いている人を見かけたよ」
「余計に暑いじゃないの…」
「最近は冷感効果がある薄手のストールも出てるよね。こういう日はかき氷が食べたくなる〜」
「冷たいアイスでもいいわ」
「じゃあ冷たい紅茶でも淹れようか。私、キッチンに行って来るけど瑞稀は何飲む?」
「アッサムが良いわ!この前あの人が淹れてくれたんだけど美味しかったの!」
「分かった、アッサムね。私はアールグレイにしよっかな。淹れて来るから瑞稀はその間に本を選んでおいて。私も戻ったら探すから」
「了解!」
「あ、さっきも言ったけど開いた窓には近付いちゃダメだからね」
「もう!そんなに心配しなくても大丈夫よ!本を選んだら大人しくしてるから!」
「大事な友達だから心配くらいするよ」
「本当に大丈夫よ。貴女はキッチンに行って二人分の紅茶でも淹れてきてちょうだい」
瑞稀に微笑まれた私は彼女を残し、紅茶を淹れる為、書庫部屋を出た。
「(…あの本、何だったんだろう。というか本が燃えるってことある?絶対ないよね?それなのに…。…いいや、戻ったらもう一度、あの本を調べてみよう。それで彼にも見てもらおう。)」
悶々と考えてても仕方ない。そもそも危険な本なのかも分からないし。それに…もしかしたら彼なら何か分かるかも知れない。
「あれ……?」
階段を下りてキッチンに向かう途中で、強烈な睡魔に突然襲われる。
「おかしいな…急に眠気が…」
立っていられなくなり、私は階段の段差に座り込み、体ごと壁に寄り掛かった。
「何で…こんなに…眠く…」
紅茶を淹れて早く彼女の所に戻らないといけないのに───。
「(ダメだ…すごく…眠たい…)」
段々と瞼が落ち始め、睡魔に勝てなかった私は、そこで意識を手放した…。
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