第12章 謎の誘拐犯-キョウフ-
「(誰が…何の理由で私を……あ!?)」
『私は貴女にとても興味があります』
真っ先に思い浮かんだのは、あの冷たい隻眼だった。
「(四木沼喬が謎の男達を使って私を誘拐しようとしたってこと…?)」
じゃあさっきの男も…
「(この前の舞踏会の時に私を見ていたって言う男の一人なのかも。それで"やっと会えた"なんて言ったのかも知れない…。)」
それにしては随分と意味深な言葉を残していった。未だに体が震え、恐怖心が治まらない。
「(怖い…怖くて堪らない…っ)」
「…立花?」
「だ、大丈夫、少し驚いただけ…平気。」
「いや全然平気そうな顔してないし。そんな震えた声で言われても説得力ないよ」
「…平気、大丈夫」
「ほら、そう言うところが強情。本当は震える程怖かった癖に妙なところで強がるなよ」
「…強がって、ないし…泣いてもいない…」
「誰も泣いてるなんて言ってない」
滉が目を細め、私の背中をあやすようにそっと叩いた。
「一人で帰らせてごめん…」
「…ううん。滉のせいじゃないよ。
もう平気、だから…大丈夫…」
「無理に立たなくてもいいよ。どうせ腰抜けてんだろ」
「ち、ちが……」
「アパートはすぐそこだし。流石に轢き殺しに戻ってはこないと思うから」
彼の声が私の中を支配する恐怖と不快感を消し去ってくれる。
「だから……───安心しろ」
頷こうとして、言葉がちゃんと出なかった。
──そんな優しさを、見せないで欲しいと思った。押し込めた涙が、また溢れてしまうから。
✤ ✤ ✤
「何だと!?誘拐されかけた!?」
「そうなんです。しかもアパートのすぐ近くで。ナンバープレートは隠してあって見えませんでしたから、計画的なものだと思います」
「(…計画的な犯行。)」
咄嗟に彼がそこまで見ていたことに感嘆を覚えつつも、同時にまた恐ろしさが込み上げてくる。
「計画的って…そんな、私なんかを…」
「私なんかって。一応、華族のお嬢様なんだろ」
「それは…一応、そうだけど…」
「もしかして…この間のナハティガルで四木沼喬に目をつけられた、とか」
「え……!」
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