第12章 謎の誘拐犯-キョウフ-
「いや、もしもの話にはなるが…そうでなければ、何処かの御曹司に一目惚れされ…たとしても、いきなりの誘拐はないよなぁ…」
「……………」
「とてもそういう雰囲気じゃなかったですね。どうしますか?念のため護衛つけます?」
「え!?流石にそこまでは…!」
「護衛、という程ではないが、巡回は暫く誰かと組ませよう。そうすれば必然的に独りにはならないし」
「(まずい…元の世界に帰る方法を探す範囲が制限された。)」
「そろそろ立花も慣れてきたろうから、独りで巡回を任せてもいいかなーなんて思ってたんだが…まぁ仕方ない」
「(スマホの検索機能使えるかな…)」
「…なら、もし問題がなければ俺が」
「………っ!」
そのたった一言に、緊張が走り抜けた。
「それは別に構わないが…珍しいな、滉が誰かの側にいたがるなんて」
「いや、俺が犯人を逃したって責任がありますから」
「……………」
嬉しいような、悲しいような、良く分からない気分だった。
彼の責任感に感嘆しつつも───少し寂しい。
「分かった、じゃあ暫くはそうしてくれるか。この間の飛び降りの件もあるし、慎重にいこう」
「……はい」
返事をした滉に、やっぱり私の気持ちはどこか複雑だった。
✤ ✤ ✤
お風呂に浸かって躰をほぐすと、不安は薄まった。その代わりに私の心に忍び込んできたのは、困惑のような興奮。
それに気付いてしまってからは、ずっと落ち着かなかった。心もそうだったし、何よりも躰が───肌がずっとざわざわしていた。
私を抱き込んだ彼の感触が、どうにも消えないのだ。
「咄嗟とはいえ…流石に驚いたけど…お礼、言いそびれた…」
ここに寝転がってから、そんなことばかり考えてしまう。それなのに、やはり消えてくれない。
力強い腕や、制服の上からでも分かる引き締まった躯、長い足───総てが自分と違う。
「…彼とも全然違う」
父やおじい様、学生時代の同級生。
同じ男の人なのに彼は。
彼だけは───別の生き物のように思えた。
「(声…すごく優しかったな…)」
素っ気なく聞こえるけど、時折優しい声。彼とは違う声に、私は居心地の良さを感じた。
next…