第12章 謎の誘拐犯-キョウフ-
「やっ!離して…!!」
助けを呼ぼうにも逃げることに頭が精一杯で、大声を出すことすら叶わない。
「触らな…私に触らないでっっ!!」
呼吸が苦しくなり、体が震え出す。すると私のストールを掴んでいる男の両目が──茜色のピアスを捉えた。
「──どうして"アイツの瞳"と同じ色をしたピアスをしている…?」
「え?」
一瞬、その男から発せられた驚きの言葉に耳を疑った。でも次の瞬間、ギリッとストールを握る手に力が込められ、私は苦しくて顔を歪める。
「く……ッ」
「許サナイ」
「!!」
憎たらしげに吐き捨てられる。
「あぁでも……───やっと会えた。」
私は目を見開いて驚いた。
男の顔が…笑っていた────。
「……立花!!」
強い力で私の躰が逆に引っ張られ、ふっと宙に浮いた。
「…出せ!」
誘拐犯が去った後も、私の恐怖は治まらず、瞳から大粒の涙が溢れ落ちる。
「ふぅ……ひっく……」
「……………」
助けられた滉の腕の中にそのままきつく抱き込まれ、彼の体温を背中に感じる。
「うぅ……」
カタカタと小刻みに震える躰。冷たくなった指先。しゃくり上げることでしか泣けない涙。男達に触られたところが…気持ち悪かった。
「ご、めんなさ…っ…今すぐ放れ…っ」
立ち上がろうとしたものの、突然の事態に躰がついていかず、足にちゃんと力が入らない。
「あ……っ」
よろめいた私は情けないことに再び滉に抱き留められてしまったのだった。
力強い腕の感触に、私の躰がびくりと強張る。
「…大丈夫だよ」
「…………っ!」
「車はもう行ったし、落ち着け」
「……は、い」
頷きはしたものの、まだ残る恐怖と不快感が込み上げて来る。
「(今の人達…一体何だったの?
明らかに私を誘拐しようと…)」
もしあそこで滉が戻ってきてくれなかったら、連れ込まれていた可能性も高い。
「(どうして私を狙ったの?そしてあの男が言った謎の言葉…)」
『──どうして"アイツの瞳"と同じ色をしたピアスをしている…?』
「(あれは…どういう意味なの?それに…"やっと会えた"って…。)」
もう何が何だか分からない。
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