第12章 謎の誘拐犯-キョウフ-
「表向きの表情だけで判断すれば、事件性は低い。でもね、更に調べたらその阿比の奥方がね、例のナハティガルの常連らしいんです」
「……………」
「毎晩のように入り浸ってるらしくて、夫婦仲は完全に冷え切っていた、と。まぁ、こんなもの珍しい話でもないですがね」
「……………」
『まるで女王のような振る舞いではありませんか?仮面で顔を隠していますが、実は彼女はさる政府高官の奥方なのです』
もちろん、彼女がそうであるとは限らない。
ただこんな話を聞いてしまうと、自分がどれだけの陰謀渦巻く場所に入り込んでいたのか、今更ながら冷や汗が滲む。
「ちなみにそれ以降、阿比の家で稀モノらしい騒ぎは起きていません。何の関係もない本だったか…それとも、その奥方あたりがこっそり処分したか」
「……………」
「……──肝心の本がないんじゃ、どうしようもないですね」
「証拠隠滅はお手の物ですからね。ビルから飛び降りた鴨池が持ってたって本…あれだってそうですよ。警察とだって繋がってますからね」
「(…やっぱり、そういうことなの。)」
私はもう口を挟む機会すら見つけられず、黙ってダージリンを飲んだ。
「あと、これは新情報になるか分かりませんが…最近妙な男がナハティガルに入り浸ってるみたいです」
「!妙な男…?」
「何でも四木沼喬と知り合いみたいで…その素性は明らかになっていません」
「その人も稀モノと何か関係が?」
「それも分かりません。その男が何者なのか、四木沼喬とはどういう関係なのか。俺はそこら辺も調べるつもりです」
「(素性が一切分からない謎の男…。)」
葦切さんから聞いた、謎の男の正体は分からないが、何故か身体がふるり、と震えた。
「…そうだ隼人、忘れないうちに聞きたいことがあるんだ。昨日、アキハバラ担当だったよな?笹乞の店って開いてた?」
「開いてたよ。売った本を燃やされたってお小言くらった」
「ああ、何かそんな事件も起きてるらしいな?本を奪って燃やすんだろ?」
「そうなんですよ、カラスだけでも面倒なのに」
滉はうんざりした様子で言った。
「そういう誤解もね、本当は解いてやりたいなーと思うんですが…なかなかやっぱり記事にし辛くてね」
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