第11章 相合い傘の温度-アメノオト-
「しかし、よく降るよなぁ。
これじゃ朝まで止みそうにないな」
「今夜は星は見えなさそう…」
「星?」
「私、星とか夜空とかが好きなの。すごくキラキラ輝いてて綺麗なんだよ」
「確か…流れ星が好きなんだっけ」
「!」
裏庭で彼と会った日、空を見上げて佇む滉に、流れ星を見たことがあるかと尋ねたことがあった。その時は、ない、と素っ気なく返されてしまったが、まさか覚えてたなんて…。
「うん、そうなの。星ももちろん好きだけど流れ星の一瞬で消えるところが好き。子供の頃は、流れ星が消えるまで願い事を唱えたりもしてたなぁ」
滉に覚えててもらえたことが嬉しくて、私は笑みを浮かべて話を続ける。
「滉は流れ星、見たことある?」
「…いや、ないな。そもそも、星なんて気にしたことなかったから」
「そっか…。じゃあ、いつか見られるといいね。滉も見たらきっと綺麗だって思うよ」
私は口の前で両手を合わせて笑う。
「…見るようにしてみる」
「え?」
「星。あんたがそこまで言うならきっと綺麗なんだろうなって思うから」
「!うん!是非!」
ほんの些細なことがこんなにも嬉しいなんて。私は心が温かくなるのを感じた。
✤ ✤ ✤
「あ、いたいた」
アパートに戻って、台所で明日の朝の下ごしらえをしていると翡翠が顔を出した。
「お疲れ様。どうかした?」
「…あのですね、実は一つご報告がありまして」
彼の様子から、恐らくそれが良い内容ではないことは察しがついた。
「昨日また…トウキョウ駅の近くのビルで飛び降りがありまして」
「飛び降り!?」
「名前は鴨池栄作、衆議院議員です。当然ながら即死だったそうです。ただ一つ気になる点が…ありまして」
「気になる点?」
「発見したのが、実はあの近くの書店の方なんです。それで、側に本が落ちていたそうなんですね」
「!?」
「ただ、栞さんがそれを警察に確かめたところ…『そんなものはなかった』と」
「それは…」
「もちろん、深夜ですし見間違いということも有り得ます。ただ…気になりますよね?」
私は深く頷いた。
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