第11章 相合い傘の温度-アメノオト-
「入って、って…あんたと俺で相合傘すんの?」
「っ!」
分かってはいたが、こうも口にされると気恥しさが込み上げ、一瞬言葉に詰まる。
「…それでも、こんなに降ってるのに私だけ傘の下にはいられない」
「………はぁ」
滉は大きな溜息をつき、不意に私の手から傘を奪った。
「俺が持つよ。あんたが持ってると俺の頭にぶつかる」
───ふっと静かになった気がした。
降りしきる雨の音は変わらず聞こえているのに、傘の下だけ聞こえる音が違う気がした。
「(…強引だったから、怒っているのかも知れない。)」
ある意味ではいつものこととは言え、やけに焦ってしまう。独りで差していた時には大き過ぎた傘なのに、二人で入ると身を寄せ会わないと雨が躰を濡らしてしまう。
「(滉とはずっと話せないままなのかな…)」
静けさが息苦しさに変わり、逃げ出したい気持ちと──不思議とこのままずっと歩き続けたい気持ちがせめぎ合う。
「…そっち、濡れてない?」
「え?あ…大丈夫。滉は?」
「大丈夫」
「(…今の。)」
些細な一言ではあったけれど、その一言が妙に私の中で染み込んでいく。
もっと彼と話してみたい───私はそう思い始めていた。
何だろう
こんな時に自然に話せること
えーと…
「…ねぇ滉、滉はどうしてフクロウに入ったの?」
「…………っ」
すぐ横で小さく息を呑む音が聞こえ、私ははっと彼を見上げる。
「…ごめんなさい、話したくないことだったら…」
「いやそうじゃなくて。いきなりだったから驚いただけだよ。というか、語るような大した理由もないからさ」
「……………」
「一応、元から本は好きだったよ。ただ、軍隊かフクロウかどっちかって言われて、軍なんて面倒臭そうだからこっちにした。その程度だからさ」
「…そうなんだ」
「俺は別に久世や翡翠とかみたいな特別な力もないしね」
「そんなことを言わないで。私だって朱鷺宮さんだって隼人だって特別な何かがあるわけじゃないでしょう。…私から見れば、滉達だって充分凄いよ」
「単なる経験の差だろ」
不機嫌そうな声ではなかったことに私はほっとする。
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