第11章 相合い傘の温度-アメノオト-
「何ですか?」
「お嬢さんは茜色が嫌いなのか?」
「っ………!」
まさかの言葉に不意打ちを食らい、上手く表情が作れず、驚いた顔を浮かべる。
「何で…そう思うんです」
「この店に初めて来た日、そこにある茜色のブローチを悲しそうに見つめてたろ」
「……………」
目の前の棚にはいろんな形のいろんな色のブローチが並べられていて、その中には彼の瞳の色に似た茜色のブローチもあった。
「最初はブローチが好きじゃねぇんだと思った。けど違うよな?お嬢さんはブローチじゃなく、茜色が嫌いなんだろ?」
私はキラキラと輝きを放つ茜色のブローチを悲しい眼差しで凝視める。
「だからそのブローチをあの時、悲しそうに眺めてた」
「(この人は鋭い…。紫鶴さんと同じで気付かない所にまで目を配らせてる。)」
「茜色が好きだったとしても、あんな悲しそうな眼はしねぇだろうからな。つまり、あんたは茜色が好きじゃないっつーわけだ」
「杙梛さん、探偵みたいですね」
「誤魔化すのはナシだぜ」
普段は揶揄うような口調なのに、こういう時だけ真剣な表情を向ける杙梛さんに困り果てた。
私は言葉に注意しながら簡潔に説明する。
「…杙梛さんの言う通り、私は茜色が好きではありません」
「なら何でそのピアス付けてんだ?」
杙梛さんの視線が茜色のピアスに向けられる。私はそっとピアスに触れた。
「私の意思で開けたんじゃないんです」
「じゃあ誰が開けたんだ?」
「友達です、とても大切な」
ペリが肩に乗り、ふさふさの尻尾を揺らす。
「茜色が嫌いなら外せばいいじゃねえか」
「…それは出来ません」
私は首を横に振る。
「これは"約束を破らないため"に付けてるんです。私がコレを外してしまえば…贖罪の意味が無くなってしまう」
「贖罪…?」
「友達との約束は破れませんよ」
「……………」
その為に彼が付けさせたピアスだ。勝手に外すことは許されない。
「なぁ、お嬢さん」
「…何でしょう」
「あんた…一体何を隠してる?」
「!」
怪訝そうな顔で杙梛さんは私を見る。
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