第11章 相合い傘の温度-アメノオト-
手近な店で軽く食事を済ませた後、また昨日のように書店を巡る。
私服のお陰で怪しまれることはないものの、残念ながら午後8時近くなっても稀モノと思わしき本に出会えなかった。
「(そうだ、石鹸を買っておこうかな。)」
私はそのまま、杙梛さんの店へと向かう。
「今晩は」
「あれ、今日は見慣れない服を着てるじゃねぇか。休みだったのか?」
「そうです。仕事ではなく、石鹸を買いに来ました」
「一個でも十個でも」
「一つで十分ですよ」
私が石鹸や香水瓶の並んだ棚を眺めていると、いつの間にかペリがすぐ側に来ていた。
「ペリたん」
「きゅ?」
「相変わらず今日も可愛い」
「きゅきゅん!」
「ペリたんのお勧めはある?」
言葉が通じるはずもないけれど、じっと凝視められてついそう尋ねてしまった。
「きゅっ!きゅきゅきゅっきゅっ!」
まるで私の言葉を理解したようにペリは星の形の薄紅色の石鹸を鼻で押した。
「(あぁ…癒しのペリたん。写メりたい。)」
その愛くるしさにスマホを出して写メりたい気持ちだったが、ぐっと堪える。
「そう言えばこの間、妙な男に出くわしたんだって?」
「ああ…そうなんです」
「あのナハティガルは嫌な噂しか聞かないよなぁ」
「まさか…杙梛さんまであそこに行ってるんじゃないですよね?」
「何だよ、妬いてんのか?」
「全然」
「お嬢さんは相変わらず塩対応だな。断っておくが、俺はカラスの仲間じゃないぞ?ただ仕事柄、噂がちらほら聞こえるってだけ」
「そうなんですね。あ、何か知ってる情報とかあります?あったら是非教えて欲しいです」
「迂闊にそう言うこと口にすると、吹っ掛けるぞ。何かを得るには支払わないとな」
「…なら、いいです」
「はは、冗談。まぁでもなーどうしようかなーあんたが危ない目に遭っても困るしなー」
「それは…多少の危険はもう覚悟してます」
「多少、ね。一体どれくらいのものを想像してるのか知らないが」
「……………」
「言っとくぞ?自分の犠牲を顧みずってのはな、基本的に自己満足だからな?あんたが怪我したり死んだりしたら、親や隼人達が悲しむだろ?」
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