第10章 思い掛けない出来事-スガオ-
「(しまった…!)」
疑問に思って口にした言葉が失言だったことに気付いて、慌てて口を噤んだ。
「へぇ…あんたの行く所にはそういうの売ってるんだな。あいにくだけど、ここら辺の映画館はそういうの売ってないよ」
「…そ、そうですか」
フラグ回収に失敗し、ダラダラと冷や汗を流し、上手い言い訳を考える。
「こ…ここの映画館にもポップコーンと飲み物を売ってる場所が出来るといいねっ!」
「……………」
「……………」
「…そうだな」
素っ気なく言って、滉は顔を前へと戻す。
「(私の馬鹿…。学習能力ゼロ。何度同じ失敗を繰り返せば理解するの…!)」
絶対に頭のおかしい奴だと思われたよ…
ちらりと横の滉を見ると、無表情にまだ何も映っていないスクリーンを眺めている。
何か話そうと思うも、また失言することを恐れて勇気が出ない。
「(はぁ…私の意気地なし…)」
そんなことを思っているうちに上映が始まり、私はすぐに物語に引き込まれた。
───綺麗で、哀しい物語だった。
仏教を広めるために国から英吉利に渡った青年と、笑顔を知らない少女の物語。
二人の淡い恋は引き裂かれ───少女は命を落とす。
「(…この女の子…可哀想…)」
終盤、感極まった私は思わず涙を滲ませてしまった。ポロポロと流れる涙の雫は頬を伝う。
「(涙腺を誘う系の映画は弱くて駄目だな…)」
目の前が涙で滲み、私はポケットからハンカチを取り出そうとする。その瞬間、ふと横の滉の顔が目に入り───。
「…………っ」
「(!?)」
…滉が…泣いているなんて…
「……………」
普段の様子からだと意外と思ってしまうけれど、そう感じてしまうのは失礼だよね…
「(私も人のこと言えないし…)」
映画より滉のことが気になってしまい、つい凝視めてしまった。すると───。
「!?」
「!!??」
私はハンカチを握り締め──慌てて顔を逸らしたのだった。
✤ ✤ ✤
「……………」
「……………」
「……………」
「…あ、あの」
「さっき見たことは綺麗さっぱり忘れてくれ」
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