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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第10章 思い掛けない出来事-スガオ-



「…でも、あの、泣くのは別に悪いことではないと思う。私も…滉より泣いてしまったし」



「とにかく忘れろ」



「…分かりました」



それからの気まずさは、今日まで以上だった。同じアパートに向かう以上もちろんバスも一緒で、通る道も同じだ。



それでも不思議とお互い、自分が先に帰るとか寄り道していくという言葉は出ない。かと言って会話は全くない。



「(…泣いているところを見られるのってやっぱり男性は嫌だよね。)」



彼と彼女と三人で泣けると有名な映画をレンタルして家で見たことがあった。序盤から泣かせにくる系のやつで、私と彼女は二人して涙がボロボロと流れていたのに…



「(平気そうだったもんなぁ。むしろ観終わった感想が"とても興味深い内容だった"って…。そういえば映画以外でも彼が泣いているところは見たことがないかも…。)」



それにしても会話がない…



そのまま私達は完璧な沈黙を貫き、遂にアパートの近くまで戻って来た。あと少しで門が見える───そんな時。



「…さっきの」



「え?」



唐突に、本当に何の前触れもなく彼が口を開いた。



「…駄目なんだ、俺。感情移入し易くて、ああいうのすぐに…」



彼はばつが悪そうにそれだけを口にし、歩みを速める。



「…あの!気にしないで!」



私は必至の覚悟でそう答える。



けれど彼は何も答えず、振り向きもせず、そのままアパートの中に入って行ってしまったのだ。



「…やっぱり、良いことがあった…ような?」



今朝は良いことがないかもと落ち込んだが、どうやら最後に良いことはあったらしい。



「(この時代の映画ってやっぱり"昔"って感じがしたな。元の世界じゃ漫画が実写化したり、CGとか使った演出もあるし。でも…今日の映画も面白かった。)」



流石に男女の間を隔てる為の物があると聞いた時は素で驚いてしまった。しかも夫婦席以外は男女で別れているのだ。



「もう少し時代が巡れば、男女別じゃなくなるのかな。その時には新しい映画も増えているだろうし、また観に行くのが楽しみだ」



私は笑みを浮かべる。



「(…大正時代か。私は…いつになったら元の世界に帰れるんだろう。)」



途端に不安が襲い、私は表情を沈ませた。



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