第10章 思い掛けない出来事-スガオ-
「……………」
「(…これは、もしかして私が妻と勘違いされて…)」
「おい立花、聞いてたよな?隣同士でいいか?」
「え!あの…!?」
「女性専用席も総て埋まっております」
「そ、そうなんですか…」
この映画館、そんなに人気だったの…
「夫婦席しかないなら仕方ないよね…。
じゃあこれで私の分もお願いします」
「面倒だからいいよ」
滉は私が出した紙幣を軽く無視し、また窓口に向かう。
「夫婦で」
「ご夫婦席二枚、承りました」
✤ ✤ ✤
「……………」
「……………」
私達は夫婦席に隣り合って座ったものの、全く会話はなかった。当然ながら周囲は仲睦まじい二人連ればかりで、どうにも居た堪れない。
「(…まさか、こんなことになるなんて…)」
俯きつつ、館内をちらちらと見回す。
「(…男女席が別れてるなんて珍しい。この時代はまだ、男女混合席じゃないんだ…)」
夫婦席以外は男女に別れてるし
元の世界にも男女別の映画館はあるのかな?
「何で男女別になってるんだろう…」
独り言のように呟いた言葉は、隣に座る滉にも当然聞こえていて…。
「お互いのプライバシーを守るためとかじゃないのか」
「!」
「どっかの映画館にもそれを隔てる物があるだろ」
「え!そんなのあるの!?」
「…あったと思うけど」
「そんな邪魔なもの置いてどうするの?」
「俺が知るはずないだろ」
「というか…今時男女別の映画館があるなんて驚いた。ポップコーンとコーラが定番なのに、誰も買っている人がいないなんて…」
「買わないんじゃないのか、そういうの」
「え、買わない?」
「…そんなの食べ飲みしてたら映画なんて楽しめないだろ」
「(えぇ…途中で喉渇いたりしないのかな。)」
「あんたは買うの?」
「私はSサイズのポップコーンと飲み物は買うけど…」
「どこで?」
「え?どこって…映画館の中に売ってるでしょ?そこで買うけど…」
「……………」
私が告げた言葉に、滉は訝しげな表情を向ける。その空気に変な違和感を感じた私は、そこで、はっとした。
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