第10章 思い掛けない出来事-スガオ-
「あら?フクロウの?こんな時間まで仕事なの?」
「いえ、仕事はもう終わりです。
個人的に本を探しに来ただけです」
「あらそう、じゃあゆっくり見ていって頂戴な」
「有難うございます…」
にこりと笑い返し、私は棚に視線を巡らせる。
「(…このお店には、なさそう…)」
私はアウラが視える訳でもない。だから稀モノの判別が難しいのは分かっている。フクロウで働かせてもらって、本に関わる事が出来て、仕事にやりがいを感じている。
でも…ツグミちゃんのように稀モノが視えなければ、私はフクロウにいる意味がない。誰かと一緒に巡回に出ても、何の役にも立たない。
「(間違いでもいいから、怪しいと思った本は持ち帰って、ツグミちゃんに視てもらおう。)」
こんなやり方は効率が悪いと分かっている。それでも…自分がフクロウにいて良い理由を見つけたい。
けれど──私がどんなに本を探したいと思っても、9時にはもうめぼしい書店は総て終わってしまう。
「(…仕方ない。今日はこれで諦め…)」
バスの停留所に向かおうとした私は、街角のある看板に気付いた。
「(そうだ…!)」
✤ ✤ ✤
「(良かった、間に合った。)」
15分後、私は先日の映画館の前にいた。
「映画館なんて久しぶり…」
照明を落とした薄暗い空間に迫力満点の巨大なスクリーン。私はポップコーンと飲み物を買って友達と見るのが好きだった。あと泣ける映画にはハンカチが必須だ。
「(えーと…切符売り場は…あ、あそこだ!)」
通りに面した切符売り場の窓口に並ぼうとした──その時。
ドンッ
「あ、ごめんなさ…」
「………あ」
「滉!」
私達はそのまま、微妙な表情で立ち尽くす。
「…滉もこの映画を観に来たの?」
「…他に、切符売り場に並ぶのにどんな用事が?」
「…そ、そうだよね…」
話はそれで終わってしまい、先に並んだ滉が切符を買う番になる。
「いらっしゃいませ、ご夫婦席でよろしいですか」
「え?」
「ご夫婦席の二名様でよろしいですか」
「いや男性一枚で」
「大変申し訳ございませんが、ただいまのお時間はほぼ満席でございます。用意出来るのはご夫婦席のみです」
.