第10章 思い掛けない出来事-スガオ-
「私は…人が倒れているところを見るのが苦手なの」
「確か鷺澤さんが倒れたのを見た時も具合が悪くなったんですよね。何か理由があるんですか?」
「…友達を亡くしたの」
「え?」
「学生時代からの付き合いで、親友みたいに仲が良かったんだけど…何か悩みを抱えていたみたいで…窓から飛び降りたの」
「自殺ってことですか…?」
「うん…。窓の下を覗き込んだら…友達が倒れてて…ピクリとも動かなくて…死んでるって思った」
「……………」
「だから累が倒れていた時も…その時のことが脳裏に浮かんで"もしかしたら"って…。それもあって私は人が倒れているところを見るのが苦手なの」
「…そうだったんですね」
「そんな悲しい顔しないで、翡翠」
「いえ…事情も知らずに軽はずみに質問してしまってすみません。貴女は友達を亡くされたのに…不謹慎でした」
「事情を知らないのは当然だよ。だからそんなに落ち込まないで。ね?」
「…有難うございます」
そう言って笑んだ翡翠に私も笑い返した。
✤ ✤ ✤
「……あれ?」
「?」
翡翠が笹乞さんのお店に足早に歩み寄る。
「ああ、やっぱり閉まってますね」
お店の扉は固く閉ざされ、カーテンが降りている。
「定休日?」
「どうなのかな…確か、笹乞さんのお店って、基本的にそういったものがなかったんですよね。一応、フクロウの書類には『不定休』と記してあったはずです。ただ…意外にも、今までお休みだったことって一度もないんですよ。来ると開いていて」
「そう…。笹乞さん?帝国図書情報資産管理局の立花です」
私は控えめに扉を叩いてみる。
けれど、少し待っても反応はない。
「…仕方ないですね、まぁこんな日もあります。次のお店に行きましょう」
✤ ✤ ✤
そうして日が暮れ、夜になる。
「…さて、本日も7時になりましたんでそろそろ戻りますか」
「そうだね」
お互いに苦笑を浮かべ、停留所に向かおうとしたところで──私はふと思いついた。
「そうだ、あの翡翠。私、用事を思い出したから先に戻っていてくれない?」
「一人で大丈夫ですか?」
「うん」
「分かりました。気をつけて」
.