第10章 思い掛けない出来事-スガオ-
「彼は本当に無愛想というか、無口というか喋るのが巧みじゃないというか…。実は僕も最初、似たようなことを思ったんで貴女の不安は良く分かります」
「翡翠も?」
「ほら、栞さんと隼人があんな性格で、こっちに構ってくれるじゃないですか。そこに加えて、紫鶴さんもあんなで、フクロウじゃないですけど杙梛さんもあんなで、隠さんや猿子さんや久世さんも、基本的には穏やかですし、だから余計に滉のあの素っ気なさが目立つのかなとも思います」
「…確かに、それはあるかも」
「貴女に対してだけ冷たいとかじゃないですよ」
「………………」
翡翠はそう言うけど…
「あの…でも、でもね、今朝…挨拶しても…一言も…」
「虫の居所が悪かったのでは?僕やみんなにも度を超して無愛想な時ってありますよ?」
「そ、そうなの?」
でも、それはそれでまた問題がある気が…
「彼は…うーん…これはあくまでも僕から見ての意見になりますが、確かに素っ気ないというか冷たいというか無愛想ではあるんですが、故意に人を傷つけようとするところは余りないかなって」
「(…昨日も褒めたつもりとは言っていたけど…もしかして彼は誤解を生みやすいんだろうか?)」
「いやまぁ、口に出した言葉で結果的に相手の心を抉ってることはあると思いますが、悪意は余り感じない気がしていて」
「(私も無意識に相手の心を抉ってるとこがあるかも…)」
「誰かを蔑んだり、傷つけようとする人って、不思議と笑っていても態度に表れません?僕だけでしょうか、そう思うのは」
「………………」
真っ先に思い浮かんだのは、昨夜出会ったあの四木沼喬だった。
彼は私と話している間中、ずっと微笑んでいた。けれど───感情は視えなかった。
「…そうだね。
翡翠の言うこと、分かる気がする」
「ね?いますよね、そういう人。後はそうですねぇ…あ、この話って隼人あたりに聞いてるかな、滉って物凄く血を怖がるんですよ」
「…うん、聞いたことがある」
「もしかしてそのあたりの事情で、人と関わりたくない、とかはあるかも知れませんね」
「…そうなんだ」
「立花さんは苦手なものってありますか?」
翡翠に問われ、苦笑を浮かべる。
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